2017年6月24日土曜日

「太陽政策とドイツの東方政策」/林東源・元統一相講演(上)

「金大中大統領の太陽政策を継承し、発展させる」。韓国の文在寅・新大統領はこう明言している。そんな太陽政策を、金大中大統領の右腕として設計、推進した林東源・元統一相は今、この間をどう振り返り、将来をどう展望しているのか。

林東源氏は文在寅大統領就任後の526日、ソウルの韓国外国語大学歴史文化研究所の学術会議で「太陽政策と東方政策――現在と未来のための省察」と題する特別講演をおこない、そのことについて語った。その内容をここに訳出して紹介したい。(波佐場 清)

イム・ドンウォン
1933
年平安北道生まれ。韓国陸軍士官学校、ソウル大卒。80年陸軍少将として予備役編入。駐オーストラリア大使。盧泰愚政権下で南北高位級会談代表。金大中政権下で大統領外交安保首席秘書官、統一相、国家情報院長など。著書に『피스메이커Peace-maker)』(중앙books)=日本語訳『南北首脳会談への道 林東源回顧録』(波佐場清訳、岩波書店)など。
写真は、いずれも今年615日夜、南北首脳会談17周年にあわせて韓国KBSで放送された「KBSスペシャル――遠い記憶 615南北首脳会談」のテレビ画面から   https://drive.google.com/open?id=0B6EIENNV3FAJemJNcXN5Skp4bFU
 
今から7年前、私はベルリン自由大学で開かれた「東方政策と太陽政策」をテーマにした討論会に参加しました。ベルリン自由大学は、あの歴史的な南北首脳会談を前に金大中大統領が「ベルリン宣言」として有名になった対北政策を発表した場所です。まさにその場所で、ヴィリー・ブラント首相の東方政策を設計し実行したエゴン・バール博士と太陽政策を設計して実行した私が向き合い、対談形式の討論をすることになったのです。
 


金大中大統領のノーベル平和賞受賞10周年を記念する行事の一環でした。金大中氏をノーベル平和賞候補に初めて推薦した方が、ほかならぬブラント総裁(198710月)で、2人はその後も親密な付き合いを続けていたのでした。私は本日、当時の対談を振り返り、いくつかのことをお話ししたいと思います。
 


1)ドイツの統一をうみ出した東方政策
この討論会でエゴン・バール博士は「ドイツ統一は吸収統一ではなかった」「『吸収統一』という言葉は、東ドイツ市民は望みもしなかったのに西ドイツが強要し引き込んで統一したかのような誤解を与え得る誤った表現だ」と指摘しました。
 
彼は「ドイツ統一は東ドイツ市民の自由意思による選択であり、東ドイツ市民がそのような決定をすることができるようにしたのがまさに西ドイツの東方政策だった」と強調したのでした。
 
そうなのです。東ドイツ市民は市民革命を通して共産政権を倒し、自由な総選挙を行って3つの統一案のうちの一つであった「併合による早期統一」を選んだのでした。ドイツ統一は東ドイツ市民が統一方式を選び、東西ドイツと戦勝4カ国が話し合いを通して達成した「合意による平和統一」だったのです。
 
もちろん、このような選択を可能にしたのが西ドイツの東方政策であったことは言うまでもありません。西ドイツはその東方政策を長期間にわたり一貫性をもって粘り強く推進して東ドイツ市民の意識変化を促し、心を動かしたのです。
 
西ドイツはブラント政権発足(1969年)後、東ドイツを孤立させる政策を捨て、平和共存しながら「接触を通した変化(change through rapprochement)」を促す政策を推進しました。20年間にわたり、年平均32億ドル規模に達する莫大な現金と物資を多様な名目と経路で東ドイツに送って支援し、毎年数百万人が東西両ドイツ間を往来するという状況をつくり出すなど接触と交流・協力を積極的に推進したのです。
 
ブラント首相は東ドイツ住民の生活水準を向上させ、民族の統合(national integrity)を維持することが統一の基盤づくりにつながると考えました。そうして東ドイツ市民が朝は共産党の新聞を読み、夜には西ドイツのテレビを見るという状況をつくり出していったのです。そんななかで東ドイツ市民の意識に変化が起こり、その心をとらえていったのでした。
 
2)太陽政策と朝鮮半島平和プロセス
金大中大統領は私たちも平和統一をなすには北の同胞たちの心をとらえ、彼らが(自ら統一を)選択できるようにすべきだと考えました。北の同胞たちの意識変化を促し、その心をとらえるために太陽政策を推進したのです。東方政策をベンチマーキングしたというわけです。
 
しかし朝鮮半島の南北はドイツとは違って同族で殺し合う戦争をし、互いに仇敵となりました。憎悪と不信をなくすには和解と信頼づくりが最も重要、かつ至急の課題にならざるを得ません。勝つか負けるかというゲームを共存の「ウィン―ウィン」(win-win)のゲームに転換するには対話と接触、交流と協力を通して変化することが可能な条件と環境をつくっていかなければなりません。
 
朝鮮戦争の砲声は止みましたが、法的にはまだ戦争が終わらない休戦状態にあります。それによって深まった敵対関係を解消するには軍事休戦体制を平和体制に転換する課題も解決していかなければなりません。戦争を防ぎ、緊張を緩和して平和を守るだけでなく、安全保障面の不安を根源から解消できるよう平和をつくっていかなければなりません。ブラント首相の言葉を借りれば「平和がすべてではないが、平和なくしては何ごともできない」のです。
 
金大中大統領は就任演説(19982月)で、南北関係を改善して統一の大路を開いていくと宣言し、対北政策の3大原則を提示しました。①どのような武力挑発も決して許さない②吸収統一をする考えはない③和解と協力を積極的に推進していく――というものです。平和を守りながら平和をつくっていこうというのです。
 
金大中政権は北を平和と統一のパートナーとして認め、和解と協力の包容政策(Engagement policy)を推進しました。この政策は南と北はもうこれ以上互いに冷戦の北風を吹かし合うのではなく、和解と協力の暖かい太陽光を当てようという意味合いから「太陽政策」の名で広く知られるところとなります。太陽政策は和解と協力を通して北が自ら変化できる環境と条件をつくり、平和をつくっていこうというものです。「和解」「協力」「変化」「平和」が太陽政策の4つのキーワードです。
 
南北関係を改善して南と北が互いに行き来し助け合い、分かち合いながら分断によって生じたお互いの勝手の悪さと苦痛を最小限に抑え、平和共存して民族の同質性を回復していこうというものです。内外情勢が政治的統一を許さない状況にあってまずは経済、社会、文化的に統一したも同然の「事実上の統一」(de facto unification)といえる状況から実現していこうというものです。
 
南北関係が凍てついていた金大中政権の初期、太陽政策はまず、易しいことから始め(先易後難)、民間が先に立ち(先民後官)、経済分野から推進し(先経後政)、先に与えて後でもらう(先供後得)という政経分離の原則に基づく現実的な接近方法をとりました。

一方で金大中政権は米国のクリントン政権に対して韓国といっしょに朝鮮半島の冷戦構造を解体し平和体制を築いていこうと説得しました。北朝鮮の核・ミサイル問題は米朝敵対関係の産物であって対症療法では解決できず、朝鮮半島の冷戦構造解体という根本的かつ包括的なアプローチで、平和プロセスを通して解決していかなければならないと説得したのです。
 
北朝鮮との関係を改善し、休戦体制を平和体制に転換しながら大量破壊兵器問題も解決していく朝鮮半島平和プロセスを推進する外交努力に注力したわけです。
 
クリントン政権は金大中大統領の提案を受け入れ、日本政府もこれに加わりました。中国、ロシア、EUも積極支持し、協力しました。韓米日3国がそれぞれ北朝鮮との対話を通して関係正常化問題の包括的解決に向けた努力を始め、朝鮮半島平和プロセスを推進しました。
 
このような状況の進展を背景に、歴史的な南北首脳会談が実現し「615南北共同宣言」が採択されることになります。米国も北朝鮮との2国間関係の根本的な改善をうたう「米朝共同コミュニケ」(20001012日)を採択し、米朝首脳会談を準備するためにオルブライト国務長官が平壌を訪問するなど、米朝関係も急進展することとなります。日本の小泉首相も平壌を訪問して「平壌宣言」(2002917日)を採択し、国交交渉を推進します。朝鮮半島の冷戦構造解体のための平和プロセスが活気を帯びることになったのです。
                                  (つづく)
















 



 


 

2017年6月14日水曜日

『辛基秀と朝鮮通信使の時代』を韓国語訳出版

江戸時代に朝鮮王朝が日本に送った「朝鮮通信使」に関する史料の掘り起こしに取り組んだ在日韓国人研究者、辛基秀さん(シン・ギス/19312002)を通して日本と朝鮮半島のかかわりを考え直した上野敏彦著『辛基秀と朝鮮通信使の時代』(2005年、明石書店)が韓国語訳され、ソウルで出版されることになった。

朝鮮通信使に関する歴史資料については、いま、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界記憶遺産登録が期待されている。その登録申請をしたのは日韓の民間団体だが、この本を読み直して感じたのもやはり民間レベルの交流が果たす役割の大きさということについて、だった。

そんな本の韓国語版に「解説」を書かせていただくことになった。以下に、日本語で書いたその拙文を再録しておきたい。この本に、いまいちど、光が当たることを願いつつ…。
    (ジャーナリスト 波佐場 清)

■希望もたらす民間交流
日韓関係はどこに行こうとしているのか。いま、慰安婦問題をめぐる両国政府の動きを見ていると、絶望的にさえ思えてくる。しかし、政府次元ではなく、いったん視線を民間レベルに移してみると、そう悲観する必要はない。本書はそのことに気づかせてくれ、勇気を与えてもくれる。

筆者の上野敏彦氏は共同通信の記者である。駆け出し時代の1980年春、初めて辛基秀さんと知り合ったころのことを私はよく知っている。私自身、当時、朝日新聞大阪社会部の記者として上野氏と同じ記者クラブにいたのである。

以来、上野氏は辛さんを通して日本と朝鮮半島のかかわりについて考えてきた。本書はそんなジャーナリストが初心を貫いて結晶させた一つの答えでもある。

■日本社会に生き続ける「通信使
辛さんが生きた日本社会は朝鮮半島にルーツを持つ人たちに優しくはなかった。差別と偏見があった。しかし歴史を振り返ると、両民族の関係はそんな時代ばかりではなかった。江戸時代の朝鮮通信使は広く、日本の文化人や庶民層も巻き込んで善隣友好の輪を広げていたのである。

本書は在日2世の辛さんが朝鮮通信使にたどり着いた過程を中心に、通信使の意義や日本の社会にもたらした影響について多角的にスポットを当てている。結果、戦後の在日韓国人史というだけでなく、朝鮮通信使に関する格好の入門書にもなっている。

上野氏は、朝鮮通信使に関する史料掘り起こしなど辛さんの研究の足跡をただ、なぞっただけではない。対馬から江戸までのルートに自ら足を運び、各地でいまも通信使の研究を続ける郷土史家らの話を直接聞いてその熱い思いを詳細に紹介している。それはこの通信使が過去の一過性の出来事だったのではなく、いまも日本の社会に生き続けていることを物語っている。

■「国際化」より「民族際化」を
本書から教えてもらったことは少なくない。京都大名誉教授だった上田正昭さん(19272016)が次のようなことを言っていたというのもその一つだ。

「『国際化』という言葉は好きではない。国家と国家の関係も重要だが、限界がある。それよりも互いの民族が主体性を尊重し、理解し合う『民族際化』という考えを大事にしたい」

同感である。国と国の関係はたしかに重要である。朝鮮通信使自体、秀吉の朝鮮侵略で破綻した日朝関係の修復へ双方の政治的思惑があった。しかし、それが広い層に根付き、時空を超えて「民族際化」の可能性を開いていったことは本書で見る通りである。

いま、日韓の国レベルの関係は厳しい。一部メディアには「反日」「嫌韓」という言葉があふれている。それをあおり、自らの政治勢力の拡大につなげようとするような動きも日韓双方に見られなくもない。


芳洲の生家跡にある雨森芳洲庵
=滋賀県長浜市高月町雨森で
しかし一方で、足元を見直すとき、もう一つの光景も見えてくる。日韓間ではいまも年間数百万の人々が行き交っている。日本のテレビで韓流ドラマが放送されない日はない。

■引き継がれる「誠心の交」
この春、本書でも紹介されている滋賀県・琵琶湖北岸に近い小さな町の「雨森芳洲庵」を訪ねてみた。江戸中期、対馬藩で朝鮮外交を担った雨森芳洲を故郷で顕彰しているのだが、ここを訪れる人は後を絶たない。館長の平井茂彦さん(72)はこう話してくれた。

「年間4千人ほどが来てくれ、うち300400人は韓国からの観光客や修学旅行生です。過疎の町に活気を与えてくれ、とくに韓国からの客人は町民こぞって大歓迎です」

芳洲が朝鮮外交の心構えとして説いた「誠心の交」の心は引き継がれているのである。上野氏のこの本が韓国で出版されることの意味の一つは、この点を確認することにある。                            20174

2017年6月8日木曜日

北との対話進めて朝鮮半島問題を主導/文在寅政権の対北政策⑥

――韓日の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を再検討し、国会批准のような手続きを考えるべきだと?

GSOMIAを再検討
協定の有効期限は1年で、毎年延長しなければなりません。十分再検討できると思います。「国会で十分に説明したあとで協定を結ぶ」という約束を国防省は守っていない、独島(竹島)や慰安婦問題についての国民感情を考慮していない、そして、この協定が「韓米日」対「朝中ロ」という対立構図を固定化する――といった点で問題があります。
67日、雇用問題に関連して消防署を訪問=青瓦台HPより

北と対話することによって朝鮮半島の問題を韓国が主導することの方が先決です。GSOMIAはそうした土台のうえに論議できる問題です。

<訳注:GSOMIAによると、この協定は1年間効力を有し、一方の締約国政府が他方の締約国政府に対しこの協定を終了させる意思を90日前に外交上の経路を通じて書面により通告しない限り、その効力は、毎年自動的に延長される――などとなっている。詳細は、外務省HP参照 http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000205832.pdf

GSOMIAは相互に情報を交換し合うためのものです。韓国が日本から北の核に関してレベルの高い情報を受け取ることができるというなら、その部分では助かる面はあります。しかし、米国や日本が韓国にいったいどれほどのレベルの情報をくれるかという問題があります。

韓国がレベルの高い情報を与えることができなければ彼らもいい情報はくれません。韓国が北と対話をして朝鮮半島の問題を主導していくとき、外交的にも米国、日本からそれに見合った待遇を受け、情報を交換するに際しても彼らはずっと精密で高度な情報をより早く提供するようになります。

――重要、かつ中国との関係も絡んで難解な問題なので、いまいちど、お尋ねします。THAAD(サード)についての考えは変わりませんか?

THAADは得失を考えて
その問題に関しても同じことが言えます。THAADは配備することもできるでしょう。しかし、朝鮮半島の問題は韓国が主導していかなければならないという立場に立てば、それを配備するに当たっての得失について具体的に検討するべきなのです。

配備するにしても、その手続きやプロセスは正当かつ透明でなければなりません。国会の批准を経なければならないだけでなく、北朝鮮がいまのように引き続き核実験をし、ミサイル搭載技術を高度化していくならば、韓米の同盟関係を強固にするうえからもTHAAD配備は十分に考慮できるという立場を中国に対して強調すべきです。

北朝鮮がすぐに核廃棄とまではいかないまでも核凍結、つまり追加的な核実験をしないよう中国が一定の役割をしてほしい、そうでなければ私たちとしてもやむを得ない、といった具合に外交努力をしていく必要があります。

そうすれば、他の解決策を講じることもでき、仮にTHAAD配備の方向にいくにしても中国が韓国に経済制裁をする名分がなくなります。

韓国の国防省が米国から要請されたことがない、協議したことも決定したこともない、と言っていながら、ある日突然、不意打ちを食らったような形でTHAAD配備が正式なものになるというのは外交、安保の面からみて完全に失敗だったといえましょう。

■協議のための圧迫
――李明博政権以降、対北政策はほとんど断絶的といえるものでした。米国は北の核問題では強硬一辺倒のトランプ政権です。トランプ政権内には核問題を解決するには北の政権が替わらなければ、とする見方もあります。朝鮮戦争は休戦中ですが、南北間の終戦協定や、米朝間の平和協定は必要なのでしょうか。

元もと米国の対北政策には選択可能なものとしてそのようなものが含まれています。北の核は局限的な軍事攻撃をしてでも根源から破壊すべきだ▽北の政権を交替させなければならない▽北の社会自体を民主化して反体制運動を支援しよう▽北との対話を通して外交的に解決しよう――といった多様な選択肢があります。

米国で言う北の核に対する局限的な軍事攻撃が、そのまま米国の対北政策というわけではありません。米国がそうしたふうにしているのは選択可能なオプションを示すことで北を圧迫しようとしているのです。

国際的な制裁も同じことです。結局、そのような圧迫を加え、最後は協議で解決しようというのです。局限的な軍事攻撃にしろ、国際的な圧迫や体制転覆の試みにしろ、結局のところ、協議をするうえで優位に立ち、問題を解決していこうということなのです。

■韓国を置いてけぼりで米朝協議
ところ、韓国政府はまるでオウム返しのように北の核廃棄なくして対話はない、と繰り返すだけです。外交もなく、策略もなく、国家経営戦略もないのです。

韓国政府は米国が常に韓国の立場に立って一緒にやってくれるものと信じているのですが、米国は北との間で対話の窓口を開いているではないですか。

米朝は昨年10月にもいわゆる「セカンドトラック」の会談をしました。北朝鮮は韓成烈外務次官や国連駐在次席大使ら現職の官吏です。米国は民間人ではありますが、ロバート・ガルーチ元国務省朝鮮半島核問題担当大使や6者協議の元次席代表ら非常に重みのある人たちでした。

民間レベルのセカンドトラックといいつつ、実際には準公式会談ともいえるものでした。すぐに公式会談に移行していく可能性があります。

韓国は朝鮮半島問題の主人公なのに、いつの間にか部外者になってしまい、見物人になってしまっている。むしろ、米国と北とで朝鮮半島の問題を話し合うように韓国の方で仕向けている。そんな愚かな選択を朴槿恵政権はしてきたのです。

2017年6月5日月曜日

平和のためなら地獄へでも…/文在寅政権の対北政策⑤

今回の大統領選を前に今年1月、ソウルで出版された『大韓民国は問う――まったく新しい国、文在寅は答える』の抄訳を続ける。

――こんどの大統領選挙で相手が「従北」とか「アカ」といったデマを流す場合、どのように対処するつもりですか? 大統領になったら(米国よりも先に)まず北朝鮮へ行くという発言が意に反し、憂慮すべきこととして受け止められているのも事実です。

人虎を成す
韓非子に「三人成虎」(三人虎を成す)というのがあります。3人がトラが出たと言えば、本当のことになるという意味です。根拠のないウソも何度も聞いているうちに真に受けるようになってしまう。
531日、李洛淵総理に任命状を授与する文在寅大統領=青瓦台HPより

しかし今はもう国民には私の真の安保観について理解していただけると思います。判断力のある方なら、(反共か容共か、といった)よこしまな理念論や亡国的な従北宣伝にはもうだまされません。

軍隊へ行くのを避け、防衛産業に絡んだ不正を働き、銃弾が貫通する防弾服で兵士の生命を売ること、そして悪意をもって国民を分断する――それこそが従北です。

<訳注:韓国の成人男性には兵役義務が課せられているが、不正な兵役逃れが後を絶たない。軍と業者の癒着も根深く、韓国メディアによると、朴槿恵政権下でも、軍幹部が業者から賄賂を受け取り、前線の兵士に「北朝鮮軍の銃弾が貫通する防弾服」を支給していた事件が発覚した>

■「米国か、北か」は悲しい質問
そして、米国か北か、どちらかを選べということ自体、実に悲しい質問です。同時にそれは根源的な問いかけでもあります。朝鮮半島で平和を構築し、北の核問題を解決するためなら、どこであろうと行けないところがあるでしょうか。地獄であったとしても行かなければならないでしょう。
 
ただ、私たちにはその質問に対しては「米国だ」と答えなければならないということがあるようです。本当に悲しいことです。その問いに対する答えが思想検証のようになること、また、その答えが米国でなければならないのではないか、という考えが支配的になっているのも悲しいことです。

米国は韓国にとって長年にわたる友邦であり、親友です。一方、北朝鮮は韓国にとって協議の対象です。核問題を解決することができるなら、また、歴代の政権でなされた南北合意が履行できるような関係に戻るなら、当然、北の方から先に行くべきでしょう。

米国は古くからの友人なので支援も受け、議論もし、戦略も十分に話し合えばいいのです。いま一度強調しますが、核問題を解決し、南北の平和の問題を解決するためなら、そこがどこであろうと行かなければなりません。

■北朝鮮は大陸への出口
――北朝鮮に行って南北の経済協力についても話し合い、風穴を開ける。そう言っていますが、そういう方向が対北基本政策なのですか?

風穴を開けるだけでは足りません。北朝鮮は韓国が大陸に進出していく出口になり得ます。そうなれば、韓国は中国、ロシア、日本、米国とともに東北アジアの平和をつくっていくうえで主導的な役割を果たせます。

――大陸に進出していく出口とはどういう意味でしょうか?

韓国経済は国際経済の沈滞や保護貿易主義などで輸出と内需が限界に達しています。北朝鮮との平和交流は韓国経済の新しい活路です。若い人たちにとってはロシアや中国に出て行くにあたって多くのチャンスが与えられる道でもあります。韓国経済の領域を広げるには北を通って大陸に出ていく以外、ほかに出口はありません。

――北の核問題はデリケートな問題です。(韓国が)北にカネをばらまき、それによって北は核を開発したという考えがいまだにあります。「それなのにまた、まず北に行くというのか…」という不安です。

■悪口だけでは何にもならない
では、北の悪口をいうだけで、核をそのままにしておこうというのでしょうか? 積極的な対策もなく、ただ非難するだけだったので問題を解決できず、北は核を兵器化してしまったのです。

北の核問題にあって、国際協力で制裁をするのは話し合いのテーブルに着かせるためです。究極的には対話と協議なのです。

北はいま、少なくなくとも爆撃機に核を載せて投下できるレベルにまできました。もう少しすれば、ミサイルの弾頭に搭載できるレベルにまで至るとみています。

このように北の核が高度化するまで李明博・朴槿恵政権は何をしていたというのでしょうか。悪口を言っていただけです。悪口を言ったからといって核開発は止まるでしょうか? 

■制裁・圧迫も協議のため
北の核問題を解決しようとするなら、国際的に制裁し、共助し、圧迫もしなければなりません。しかしそうした制裁や圧迫すらも協議のためなのです。

そうした努力はまったくしてみもしないで、ただ拳を振り上げているだけでは何にもなりません。戦争の不安をもたらしただけの李明博・朴槿恵政権の安保政策、北の核に対する無策を批判すべきです。

――トランプ米政権から韓国にTHAAD(サード)を早急に配備すべきだというメッセ―ジがきています。

トランプ政権の外交政策や対北政策がどうであれ、韓国は実用的に対処しなければなりません。李明博・朴槿恵政権が間違ったのは、実用的でなく、理念的だったからです。

韓国社会にいつも(反共か、容共かといった)理念論をけしかけ、理念的に色分けする。それが、保守政権が政権延長のために常用してきた戦略でした。

韓国の国益を考えた実用的なアプローチをしないで理念だけで北をとらえ、相手を完全に打ちのめす対象としてだけ見るのです。朝鮮半島と東北アジアの平和のためにもTHAAD配備の問題は実用的な側面から解決策を見いだすべきです。

2017年6月1日木曜日

THAAD配備は強大国の角逐まねく/文在寅政権の対北政策④

――米軍の高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD/サード)韓国配備が決まり、北はもちろん、中国との関係も相当デリケートな状況になっています。この問題についてはどのように解決していけばいいと?
 
518日、光州民主化運動37周年記念式典で、民主化運動を象徴する歌「あなたのための行進曲」を歌う文在寅大統領ら=青瓦台HP
■痛恨の歴史を繰り返してはならない
いまはもう、米韓がTHAAD配備で合意してしまっているので再度話し合うというのは難しいでしょう。この局面で決して忘れてはならないことがあります。朝鮮半島を取り巻く強大国がわが国をめぐって角逐を繰り広げたことは旧韓末にもあったということです。

<訳注:「旧韓末」とは、朝鮮王朝が末期に国号を大韓帝国(18971910年)と改めた時期のこと>

そこでは、日清戦争、日露戦争など強大国の角逐がこの朝鮮半島を舞台にこの地で起きたのでした。それによって私たちは国権を失うという痛恨の歴史を体験したのです。そのような悲劇は避けなければなりません。

THAAD配備は、朝鮮半島内でいま一度、強大国の角逐を招き得ます。北の核問題への対応を超えて、民族史、文明史といった大きな観点からも見ていかなければなりません。いったい、どうするのが望ましいのか、ということです。

■拙速でなされた韓米合意
何よりもまず、プロセスや手続きがだいじなのに、朴槿恵大統領は一方的に決めてしまったのです。このような問題は国会の批准が必要です。国会で十分に検討して決めるべき問題なのです。

THAAD配備に関する韓米間の合意自体、非常に性急、拙速でなされました。そのような合意がなされる前に広く議論がなされるべきでした。

北の高高度ミサイルに対し、わが朝鮮半島内で効用があるのか、MDとは別個に韓国が追求してきたK-MDで一部機能を代用できるのか、あるいはMD体制に必然的に編入される効果をもたらすのか、といった点を十分に検討すべきでした。

そして次に、これに対する中国側の反発がないのか、これによって中国、ロシア、北朝鮮が結びつき、それと韓米日が対峙することになる外交状況をどう克服するか、そのような多くのことを検討する必要があります。

■効果にも疑問
THAADの効用は米国においてさえも立証されていません。米国のテキサスにTHAADが配備されたというが、実際そこに配備されたわけではない。配備はできず、ただテキサスにあるというだけなのです。十分に検証されていないから…。

そういうことなのですが、ともかく今は韓米間で話し合いをしたのですが、それなりに効果があるとしてもせいぜい北の核問題に対する国民の不安を心理的なレベルで減らしてやれる程度でしょう。また、北を圧迫する効果があるというなら、その程度は認めることもできるでしょう。

しかし、やはり、あらかじめ検討しておかなければならない部分についての検討は是非とも必要です。

■国会の批准が必要
次にTHAAD配備の場所を星山砲台から星州ゴルフ場に移したことで、いまはもう国会の同意を得る必要性がずっと高まりました。

星山砲台の場合は砲台なのでそう大きな財政負担はない。大きな財政負担がないので国会の批准は必要でないという弁明もあり得ましたが、いまはゴルフ場の買い入れ費用だけで少なくとも1千億ウォンはかかります。

そうなると、重大な財政負担を伴う国際間の合意になるわけです。だから、いまとなってはもう国会の批准が必要です。それを避けるために星州ゴルフ場と軍所有の土地を交換する方式をとったとしても、カネか土地かの違いで財政負担は同じことです。いずれにしても、国会の同意を得るプロセスが必要になります。


――金大中・盧武鉉政権が北にカネをばらまき、それを北が核開発に利用した、といった批判がありました。そのことで北の人権問題には目をつぶった、という批判も少なくありません。

■「ばらまき」批判は通じない
そういうふうに世論を駆り立ててきたのです。しかし、いまとなっては過去10年間の政権は、経済はもちろん安保の面でもまったく無能だったということは多くの国民の知るところとなりました。少なくとも2040歳代はそのような主張をまったく信じません。高齢層の一部はそう信じているが、それもほとんどなくなってきています。

そのことは、(反共か容共かといった)理念論のようなものに取り込まれていないのを見るとわかります。国民はもう、そのような考えに絡めとられることはありません。

「共に民主党」はちゃんとした安保政策体系を持っています。10年間対決一辺倒だった李明博・朴槿恵政権の安保面における無能ぶりとは確実に違う政策を示し、説得できる状況になってきています。