2017年6月5日月曜日

平和のためなら地獄へでも…/文在寅政権の対北政策⑤

今回の大統領選を前に今年1月、ソウルで出版された『大韓民国は問う――まったく新しい国、文在寅は答える』の抄訳を続ける。

――こんどの大統領選挙で相手が「従北」とか「アカ」といったデマを流す場合、どのように対処するつもりですか? 大統領になったら(米国よりも先に)まず北朝鮮へ行くという発言が意に反し、憂慮すべきこととして受け止められているのも事実です。

人虎を成す
韓非子に「三人成虎」(三人虎を成す)というのがあります。3人がトラが出たと言えば、本当のことになるという意味です。根拠のないウソも何度も聞いているうちに真に受けるようになってしまう。
531日、李洛淵総理に任命状を授与する文在寅大統領=青瓦台HPより

しかし今はもう国民には私の真の安保観について理解していただけると思います。判断力のある方なら、(反共か容共か、といった)よこしまな理念論や亡国的な従北宣伝にはもうだまされません。

軍隊へ行くのを避け、防衛産業に絡んだ不正を働き、銃弾が貫通する防弾服で兵士の生命を売ること、そして悪意をもって国民を分断する――それこそが従北です。

<訳注:韓国の成人男性には兵役義務が課せられているが、不正な兵役逃れが後を絶たない。軍と業者の癒着も根深く、韓国メディアによると、朴槿恵政権下でも、軍幹部が業者から賄賂を受け取り、前線の兵士に「北朝鮮軍の銃弾が貫通する防弾服」を支給していた事件が発覚した>

■「米国か、北か」は悲しい質問
そして、米国か北か、どちらかを選べということ自体、実に悲しい質問です。同時にそれは根源的な問いかけでもあります。朝鮮半島で平和を構築し、北の核問題を解決するためなら、どこであろうと行けないところがあるでしょうか。地獄であったとしても行かなければならないでしょう。
 
ただ、私たちにはその質問に対しては「米国だ」と答えなければならないということがあるようです。本当に悲しいことです。その問いに対する答えが思想検証のようになること、また、その答えが米国でなければならないのではないか、という考えが支配的になっているのも悲しいことです。

米国は韓国にとって長年にわたる友邦であり、親友です。一方、北朝鮮は韓国にとって協議の対象です。核問題を解決することができるなら、また、歴代の政権でなされた南北合意が履行できるような関係に戻るなら、当然、北の方から先に行くべきでしょう。

米国は古くからの友人なので支援も受け、議論もし、戦略も十分に話し合えばいいのです。いま一度強調しますが、核問題を解決し、南北の平和の問題を解決するためなら、そこがどこであろうと行かなければなりません。

■北朝鮮は大陸への出口
――北朝鮮に行って南北の経済協力についても話し合い、風穴を開ける。そう言っていますが、そういう方向が対北基本政策なのですか?

風穴を開けるだけでは足りません。北朝鮮は韓国が大陸に進出していく出口になり得ます。そうなれば、韓国は中国、ロシア、日本、米国とともに東北アジアの平和をつくっていくうえで主導的な役割を果たせます。

――大陸に進出していく出口とはどういう意味でしょうか?

韓国経済は国際経済の沈滞や保護貿易主義などで輸出と内需が限界に達しています。北朝鮮との平和交流は韓国経済の新しい活路です。若い人たちにとってはロシアや中国に出て行くにあたって多くのチャンスが与えられる道でもあります。韓国経済の領域を広げるには北を通って大陸に出ていく以外、ほかに出口はありません。

――北の核問題はデリケートな問題です。(韓国が)北にカネをばらまき、それによって北は核を開発したという考えがいまだにあります。「それなのにまた、まず北に行くというのか…」という不安です。

■悪口だけでは何にもならない
では、北の悪口をいうだけで、核をそのままにしておこうというのでしょうか? 積極的な対策もなく、ただ非難するだけだったので問題を解決できず、北は核を兵器化してしまったのです。

北の核問題にあって、国際協力で制裁をするのは話し合いのテーブルに着かせるためです。究極的には対話と協議なのです。

北はいま、少なくなくとも爆撃機に核を載せて投下できるレベルにまできました。もう少しすれば、ミサイルの弾頭に搭載できるレベルにまで至るとみています。

このように北の核が高度化するまで李明博・朴槿恵政権は何をしていたというのでしょうか。悪口を言っていただけです。悪口を言ったからといって核開発は止まるでしょうか? 

■制裁・圧迫も協議のため
北の核問題を解決しようとするなら、国際的に制裁し、共助し、圧迫もしなければなりません。しかしそうした制裁や圧迫すらも協議のためなのです。

そうした努力はまったくしてみもしないで、ただ拳を振り上げているだけでは何にもなりません。戦争の不安をもたらしただけの李明博・朴槿恵政権の安保政策、北の核に対する無策を批判すべきです。

――トランプ米政権から韓国にTHAAD(サード)を早急に配備すべきだというメッセ―ジがきています。

トランプ政権の外交政策や対北政策がどうであれ、韓国は実用的に対処しなければなりません。李明博・朴槿恵政権が間違ったのは、実用的でなく、理念的だったからです。

韓国社会にいつも(反共か、容共かといった)理念論をけしかけ、理念的に色分けする。それが、保守政権が政権延長のために常用してきた戦略でした。

韓国の国益を考えた実用的なアプローチをしないで理念だけで北をとらえ、相手を完全に打ちのめす対象としてだけ見るのです。朝鮮半島と東北アジアの平和のためにもTHAAD配備の問題は実用的な側面から解決策を見いだすべきです。

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