2017年2月6日月曜日

「最終、不可逆」はあり得るか/日韓慰安婦合意座礁

日韓の政府間関係が、暗礁に乗り上げている。
昨年末、日本の釜山総領事館前に現地の市民団体などが慰安婦問題を象徴する「少女像」を設置したことをめぐり、日本政府が「2015年末の日韓合意の精神に反する」として駐韓大使らを一時帰国させるなどの措置を取ったまま、打開の見通しが立っていない。

日本政府が強調しているのは、日韓合意で慰安婦問題は「最終的かつ不可逆的に解決される」とした点。韓国内には当初から強い反対論があったのだが、それを押し切り、その後発覚した諸疑惑でいま統治能力を失ってしまった朴槿恵大統領には唖然とするばかりだが、日本側にまったく問題がなかったと言えるのか、どうか。

そもそも、「最終的、不可逆的解決」とは何なのか。人権や歴史認識がからむこの種の問題にそのような解決というものはあり得るのか。

■日韓合意
2015年12月28日、岸田文雄外相と尹炳世外相がソウルでおこなった共同発表には、次のよう内容が含まれていた。
 
 
外務省HPから
▽慰安婦問題は日本軍関与の下、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題で、日本政府は責任を痛感。安倍晋三首相は、日本の首相として心からのおわびと反省の気持ちを表明。

▽日本政府は韓国政府が設立する元慰安婦支援の財団に日本政府の予算で10億円程度を一括拠出。両政府が協力し全ての元慰安婦の名誉と尊厳の回復、癒しのための事業を実施。

▽それを前提に、今回の発表でこの問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認。

 ▽韓国政府は在韓日本大使館前の少女像に対する日本政府の懸念を認知し、可能な対応方向について関連団体との協議などで適切に解決されるよう努力。

▽両政府は今後、国際社会でこの問題で互いに非難・批判することを控える。


 
■長引く「当面の措置」
この合意に基づいて日本政府は昨年、韓国政府が設立した財団に10億円を拠出。これによって日本政府は、日韓合意に基づく日本側の責務は果たした、としている。

一方、韓国側は、元慰安婦の一部が日本の拠出金の受け取りを拒否。また、「適切に解決されるよう努力する」と韓国側が約束した在韓日本大使館前の少女像についても日本側の求める移転は実現していない。そんなところへ、昨年末、釜山の日本総領事館前に新たに、また別の少女像が設置されてしまった。

釜山の少女像について日本政府は「合意違反」として韓国側に「早急な撤去」を申し入れ、今年1月6日、駐韓大使の一時帰国や日韓通貨スワップ協議の中断など4項目の「当面の措置」を発表。1月9日に駐韓大使が「一時帰国」したまま、「当面の措置」は2月に入っても続いている。

こうした異常な事態の背景には、朴槿恵大統領が昨年12月の弾劾訴追で職務停止となり、韓国政府が半ば機能不全状態になっていることもある。日韓合意に対する韓国民の反発の大きさを考えると、そんな合意に踏み切った大統領の判断の甘さも浮き彫りになってくる。

しかし、では、日本政府の側にまったく問題はなかった、といえるのか。

 
■「もう謝罪もしない」
2015年末の日韓合意の後、翌16年1月12日の衆院予算委員会で岸田外相は合意の意味合いについて次のような答弁をしていた。

「今回の合意が今までの慰安婦問題についての取り組みと決定的に違うのは、日韓両政府が史上初めて、最終的、不可逆的な解決であることを確認し、それを世界に向けてそろって明確に表明した点だと思っています」(第190回衆院予算委会議録第3号)

要するに、日韓のこれまでのやりとりとは次元の違う合意だというのである。

安倍首相自身も日韓外相による合意発表のすぐあと、朴大統領と電話で会談。その翌日(2015年12月29日)、周囲に次のように語ったという。

「今後、(韓国との関係で)この問題について一切、言わない。次の日韓首脳会談でももう触れない。そのことは電話会談でも言っておいた。昨日をもってすべて終わりだ。もう謝罪もしない」(2015年12月30日付産経新聞)

安倍首相は外相合意で示された「最終的かつ不可逆的に解決」をそのように受け止めていたわけである。しかし、それは外に向けても十分に説得力を持つといえるのか、どうか。

■「被害者中心のアプローチではない」
この日韓合意が発表されたあと、国際社会から一つの「異議申し立て」があった。昨年3月7日、国連女子差別撤廃委員会(CEDAW)が公表した日本への最終勧告(第7回及び第8回報告に対する女子差別撤廃委員会最終見解)である。

に載せられている日本語訳の「慰安婦」に関する部分(9~10ページ)を改めて読み返してみる。

ここでは、日韓合意に「留意する」とする一方で、日本政府の慰安婦問題への取り組みについて次のような点を「遺憾」としている。

(a)「慰安婦」の問題は「最終的かつ不可逆的に解決される」とする韓国との合意の発表が被害者中心のアプローチを十分に取らなかった。

(b) 「慰安婦」の中には彼女たちが蒙った深刻な人権侵害に対して公式で明白な責任の承認を得ることなく亡くなった者もいる。

(c) その他の関係国の「慰安婦」被害者に対し、国際人権法上の義務を果たしてこなかった。

(d) 教科書から「慰安婦」の問題に関する記述を削除した。

 
そのうえで、日本に以下の「要請」をしている。

(a) 指導者や公職にある者が、「慰安婦」問題に対する責任を過小評価し、被害者を再び傷つけるような発言はやめるよう確保する。

(b) 被害者の救済の権利を認め、補償、満足、公的謝罪、リハビリテーションのための措置を含む、十分かつ効果的な救済及び賠償を提供する。

(c) 2015年12月に韓国と合同で発表した二国間合意の実施に当たっては、被害者・生存者の意向をしかるべく考慮し、被害者の真実、正義、賠償を求める権利を確保する。

(d) 「慰安婦」の問題を教科書に適切に組み込むとともに、歴史的事実を生徒や社会全般に客観的に伝えられるよう確保する。

(e) 被害者・生存者の真実、正義、賠償を求める権利を確保するために行われた協議やその他の措置について、次回の定期報告の中で情報提供する。

■日本政府の訴え退ける
日本に対するこの国連女子差別撤廃委員会の最終見解発表に先立ち昨年2月16日、スイス・ジュネーブで開かれた同委員会の対日審査には外務省の杉山晋輔外務審議官(当時/現外務事務次官)が直接現地に乗り込んで慰安婦問題に関する日本政府の立場を説明していた。次のような内容が含まれていた。

▽日本政府は1990年代初頭以降、慰安婦問題に関する本格的な事実調査を行ったが、日本政府が発見した資料の中には、軍や官憲による「強制連行」を確認できるものはなかった。

▽「性奴隷」といった表現は事実に反する。

▽日韓外相間で、慰安婦問題が最終的かつ不可逆的に解決されることが確認され、日韓首脳電話会談でも、これを確認し、評価した。

▽潘基文国連事務総長を含め、国際社会は、日韓両国が合意に達したことに歓迎の意を表明していると承知している。

*詳細は外務省のHP

 
こうした日本政府の主張は国際社会ではさほど通じなかった。すでに見たように、国連女子差別撤廃委員会の最終見解は、「最終的かつ不可逆的に解決される」とした日韓合意について「被害者中心のアプローチを十分に取らなかった」とするなど、日本政府には極めて厳しい内容のものとなっていた。

2017年2月3日金曜日

文在寅氏「慰安婦問題は再協議を」/韓国大統領選レースで進撃

韓国の次期大統領選レースで、保守層や中道層の期待を集めた前国連事務総長、潘基文氏が脱落したことで、この間世論調査の支持率でトップを走ってきた革新系の最大野党「共に民主党」の文在寅・前党代表(64)の存在がさらに大きく浮上してきた。潘氏に代わる代表選手の擁立へ向けた保守・中道の合従連衡や朴槿恵大統領に対する弾劾審判の行方など不透明な部分もまだ多く、現段階でゴールを占うのはなかなか困難だが、レースはこんごも文在寅氏を軸に展開されていくことは間違いなさそうだ。

文在寅氏はどんな政策を掲げ、何を訴えているのか。韓国の保守系有力紙「朝鮮日報」の電子版が今年1月16日、文在寅氏との長文のインタビュー記事を比較的まとまった形で載せていた。: http://news.chosun.com/site/data/html_dir/2017/01/16/2017011600954.html
その一問一答の中から、とくに目を引いた部分をピックアップし、拙訳で紹介する。



ムン・ジェイン
 
1953年1月 慶尚南道巨済島生まれ。
72年 慶煕大学法学部入学。
75年 学生運動で投獄。
78年 兵役(特戦司令部空挺部隊)除隊。
80年 慶煕大卒、司法試験合格。
82年 廬武鉉弁護士(のちの大統領)と釜山で合同法律事務所を開設。
2002年 廬武鉉大統領候補の釜山選対本部長。
03年、05年 大統領府民情首席秘書官。
07年 廬武鉉大統領秘書室長。
09年 廬武鉉氏の国民葬委員長。
12年 国会議員、野党大統領選候補として朴槿恵大統領に惜敗した。
 
(写真は、いずれも文在寅ホームページから)
 
■慰安婦問題は再協議を
―慰安婦問題で日本との再協議を主張している。
 
そもそも合意はあったのか。私にはよく分からない。いったい、どのような合意をしたのか、韓国政府は明らかにしていない。合意内容に関する説明も両政府間で異なる。韓国政府は10億円には謝罪と賠償の意味が込められているというが、日本はそうではないと言う。
 
 
(慰安婦被害を象徴する)少女像に関しても韓国は合意していないというが、日本は駐韓大使の召還(ママ)措置まで…それに両国の通貨スワップ協議まで中断したではないか。そうしておいて、まるで韓国が詐欺でもしたかのように言っている。韓国政府はそのような合意はしていないという。慰安婦問題の本質は、日本がそれについて法的責任を認め、公式的に謝罪することだ。それが盛り込まれていない合意は認めることができない。
 
―政権をとれば、再協議するつもりか。
 
再協議すべきだと思う。ただ、朴槿恵政権はこの問題が解決しなければ、日本とは何もできないと前提条件にして自らの手足を縛ってしまった。とんでもないことをしたものだと思う。両国関係を発展させていくうえで、この問題を前提条件としてはだめだ。この問題はこれとして話し合い、一方で、未来の関係についてはまた、別のこととして発展させていくべきだ。
 
■核問題は制裁や圧迫では解決できない
―北の核問題は、保守・進歩という立場を離れ、正常化という次元で放棄させなければならないのではないか。
 
その通りだ。実用的な態度が求められている。理念的なモノサシだけで「北は軽蔑の対象」と見ていては解決できない。これまで行ってきた制裁と圧迫は国際的な共助の下でなされるべきなのは当然だ。ある意味、私はもっと強力な制裁、圧迫が必要な場合もありうるとみている。
 
ただ、それですべてということではないということだ。それでは解決できず、結局のところ、対話と協議を並行すべきなのだ。強い制裁や圧迫も究極のところ、話し合いのテーブルに北を引き出して核の廃棄を受け入れさせるのが目標ではないのか。
 
■開城工団は再開すべきだ
―核問題とは関係なく、開成工団を再開すると言っている。国際社会の制裁と噛み合わないのではないか。
 
国連決議案から開城工団は除外されてきた。北を変えていくには多くの努力をしなければならないが、開城工団にあって、我々が北に進出して市場経済を持ち込めば、こちらの体制の方が優っていることを北に見せてやることができる。北が韓国に依存するようにすることが核問題の解決に役立つ。そのようなテコをもっていてこそ核問題の解決につながる。すべてを絶ち、悪口を言っているだけで、どうして北の核問題を解決できるというのか。
 
 ―米国は国際社会の制裁に向けて韓国に開城工団をやめろといい、中国は、韓国が開城工団をやりながらどうして中国に制裁しろと求めるのか、ということにならないか。
 
開城工団は国連の制裁決議から除外されている。朴槿恵政権は、(朴槿恵大統領の友人の)崔順実(の政治介入)が作用したためかどうか、理解できない決定をしてしまった。韓国企業が撤収するにあたっても時限や余裕を与えず、原資材のようなものをいっさい持ち出せなくしてしまった。
 
 
―なら、再開しても国際社会が問題にしないとみるのか?
当然でしょう。(開城工団撤収は)全世界がみな理解できなかったはずだ。
 
■金剛山観光も韓国の方に利得
―金剛山観光は安全措置さえとられれば再開すると言っている。現金支援は問題にならないか。
 
(開城工団の場合と)同じことだ。金剛山観光の場合も北の地に韓国の企業が入っていき、その地域を租借したも同然なのだ。得失を計算すると、韓国が何百倍、何千倍という利得がある。
 
―かつてと同じように北に現金を与える形の金剛山観光もとくに問題はない、と?
 
経済協力を広げていくことが、北自らが不安がっている体制崩壊の恐怖を減らし、孤立から抜け出て開放に向かうようにさせる。そんな中で北の核問題を解決していこうというのだ。
 
■サード(THAAD)配置の問題は次期政権で
―米軍の高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD)を次期政権に持ち越そうと主張している。撤回を前提としているのではないか。
広く世論に問うて決めようというのだ。撤回を決め込んで次期政権に引き継ごうというものではない。韓米間で合意がなされたものをそう簡単に取り消せるとは考えていない。
 
ただ、国内で国会の同意といったことは欠かせない。対外的にも中国とロシアに対する外交的な説得の努力が必要だ。そのような過程を経ずにサード配置が決まった。それで、この問題を次期政権に持ち越せば、そこで国会の批准を含む公論化の過程を踏めるし、中国とロシアを説得する機会も持てると思う。
 
■作戦統制権返還はできるだけ早く
―(在韓米軍から韓国軍への)戦時作戦統制権の返還問題は事実上、無期限延期となっている。政権につけば、また、任期内の返還を推進する考えか?
 
任期内に実現できるかどうかは分からないが、戦時作戦権はできるだけ早く返還されてこそ、韓国の国防が不完全な状態を脱して自主国防が実現できると考えている。いまのように莫大な国防予算を使いながら全体的な作戦統制権は米国に与える、つまり、空軍と海軍力は米国側にあり、韓国は陸軍と歩兵が中心というだけでは、とてつもない予算の投入にもかかわらず、完全な安保ということにはならない。
 
■大企業、金持ちより国民のための経済を
―国民生活は苦しい状況にある。経済公約は?

 キーワードは正義と公正だ。それを達成するための方策は国民成長だ。概念的には、この間、経済成長の果実が大企業と金持ちだけに行っていたのを、国民に等しく分配されるようにする。それで、大企業と金持ちだけが成長する経済ではなく、国民が共に成長できるようになる。
 
具体的な方策について言えば、まずは働く場所、2番目に財閥改革、3番目が大企業と中小企業の公正な共存、そして非正規職・最低賃金問題の改善といったところだ。韓国はこの間、輸出中心の成長戦略をとってきたが、輸出と内需を並行させる成長戦略に転換しようというのだ。
 
■忘れられない金大中元大統領の言葉
―政治の世界に入り、大統領選にまで出ようと決心したのには、何か特別のきっかけでもあったのか?
 
廬武鉉元大統領が亡くなった後、金大中元大統領が語ったいくつかの言葉が胸に響いた。廬武鉉大統領の葬儀に当たっては、健康が思わしくないのに猛暑の中を参列され、嗚咽する姿も見せて下さった。
 
金大中大統領は廬武鉉大統領の死について「私の体の半分が壊れていくような感じだ」と言われた。そんな金大統領への感謝と慰労を兼ねて食事の席に案内した。それが金大中大統領との最後の食事となった。
金大中大統領はそのあとすぐに入院し、そのまま亡くなられたのだが、金大中大統領から「くれぐれも…」と頼まれたことがある。再現すると、次のようなことだった。
 
「まったく…私が一生涯をかけて成し遂げた民主主義、南北関係が壊れていくのを見ていると、まるで夢の中の出来事のように思えてしまう。必ずや政権交代をしなければならない。いまの民主党では政権交代は不可能だ。市民社会も巻き込んだ野党勢力全体の統合をなさねばならない」
「それには仮に民主党の勢力が7あったとして、統合対象勢力が3だからといって民主党が7を取り、相手方に3を与えるというのでは統合はできない。7の民主党が3を取り、3の市民社会に7を与えるとき、初めて統合がなる。そのような精神で統合しろ。私はもう年老い、力もないので若い君たちの力で必ずや統合を成し遂げてほしい」
 
そのように頼まれたことが、ずっと心に残ってきた。それで、統合運動をやり、そうした責任感から国会議員選挙に出馬した。
 
 
 
 
 
 

 

2016年12月17日土曜日

日本と韓国の違い/「李在明演説」を読む

「隣見て我が振り直せまつりごと」(大阪府 西野 輝雄)
12月13日付朝日新聞、「朝日川柳」の一句である。

朴槿恵大統領を追い詰めた韓国の大デモを見ながら日韓両社会の違いについて考えさせられた。何が、どう違うのか。結局のところ、「国のかたち」といった根本からして違うのではないか。

早いところ、憲法を見比べてみる。

■民主共和国/国民主権
韓国の憲法は「悠久の歴史と伝統に輝くわが大韓国民は…」とする前文で始まる。つまり、主語は「国民」であり、続く第1条[国号・政体・主権]で、次のようにうたっている。

①    大韓民国は民主共和国である。
②    大韓民国の主権は国民にあり、すべての権力は国民から出てくる。

読んで字のごとく、「民主共和国」であることと「国民主権」をまず、第一に強調しているわけである。

■象徴天皇
日本国憲法については言わずもがな、だろう。前文で「日本国民」を主語として国民主権をうたい、第1条[天皇の地位・国民主権]は、「天皇は…」で始まる次のような条文である。

天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく。

以下、日本国憲法は第8条までが天皇に関する条項であり、続く第9条で「戦争の放棄」をうたっていることは周知のとおりである。

■李在明氏の演説
こんなことを意識したのは、韓国の次期大統領選レースで急浮上している李在明氏(1964年12月生まれ、51歳)の演説を聞いてからである。イ・ジェミョン(李在明)? そう、私も最近までよく知らなかったのだが、最大野党「共に民主党」所属、弁護士出身の城南市長のことである。

韓国を揺るがす今回の件で、朴槿恵大統領の弾劾を真っ先に主張し、支持率を上げてきた。「過激」な発言で、「韓国のトランプ(米次期大統領)」と言われているようだが、自らは「あえて言うなら、私は『成功したサンダース[訳注:米大統領選の民主党予備選で善戦したバーニー・サンダース氏]』をめざす」と切り返しているようだ。ともあれ、YouTubeに上がっている、その演説というのはこうだ。


週末ごとの大デモの走りとなった10月29日のソウル中心部のデモ集会で訴えているシーンである。再生回数は12月17日現在、129万回を超えている。少し長くなるが、韓国民が何に怒っているのかが伝わってくるので、概要を訳出してみた。

■「国民こそが、国の主人」
≪大韓民国は民主共和国です。国民が国の主人であり、すべての権力は国民から出ています。大統領は国の支配者ではなく、国民を代表し国民のために仕事をする雇われ人であり、代理人に過ぎないのです。

そのような人間がまるで支配者のように、女王のように、上皇の崔順実[訳注:国政に介入した疑いで逮捕された朴大統領の友人]にとりつかれて国民、大韓民国、民主共和国を愚弄しています。

国民は大統領がこれまで犯してきた腐敗、無能、堕落に耐えてきました。(旅客船セウォル号沈没事故で修学旅行生ら)300余人が死んでいく現場を離れ、どことも知れぬ場所で7時間を過ごしたという事実にも私たちは耐えてきました。

平和を破壊し、朝鮮半島を戦争の危険に陥れたことすら私たちは我慢してきました。
国民の暮らしが破壊され、公明、公正であるべき国が、公明でなくなり、不公正の奈落に落ち込んだときも私たちは耐えてきました。

しかしそんな大統領という存在が、国民の委任したその偉大な政治権限を、得体もしれない巫女の家族に、その奇妙な者たちに丸投げしていたことを私たちは許すことができません。

私たちには力がなく、カネもないとはいえ、自尊心がないわけではありません。
私たちが朴槿恵の月給を出しており、朴槿恵にその権限を任せたこの国の主人なのです≫

■「これ以上に悪くなることはない」
≪朴槿恵はすでに大統領としての権威を失いました。朴槿恵はすでにこの国を導く基本的な素養、資質すら全くないということを国民の前に自ら明らかにしました。

朴槿恵はもう、大統領ではありません。即刻、形ばかりの権力を捨て、下野しなければなりません。退陣すべきです。弾劾といわず、今すぐ大韓民国に関わる権限を捨て、即刻おうちにお帰りなさい。

この国の主人が命じます。朴槿恵は国民の支配者ではなく、私たちの雇われ人であり、いつでも解雇し、そのポストから追い出すことができます。朴槿恵は(権利が守られるべき)労働者ではなく国民の代理人なので、解雇しても構いません。

一部に、下野すれば混乱する、弾劾してはいけない、という声があります。しかし、私は確信しています。いま、戦争の危険に瀕し、国が滅びようとし、数百人の国民が死んでいく現場を離れてしまう大統領がいること以上に大きな混乱はあり得ましょうか。大統領が去ったからと言って、いまよりも私たちの暮らしが悪くなり、朝鮮半島がさらに危うくなるということがあるでしょうか≫

■「既得権を撃破し、新しい道に進もう」
≪民主共和国のために私たちは闘わなければなりません。公平に機会が保障される平等な国のために、公正な競争が保障される真に自由な国のために、戦争の危険がない平和な国のために、生命の心配がない安全な国のために、私たちは闘う時です。

朴槿恵を追いだし、朴槿恵の本体であるセヌリ党を解体し、既得権を撃破し、新しい道に進もうではありませんか。私たちが闘えば、力を合わせれば、私たちは勝つことができます。新しい歴史をつくることができます。この既得権、過去の悪い構造を壊し、新しい道、希望の道をつくることができます。共に闘いましょう≫

以上、確かに扇動的で、過激な部分がある。しかし、訴えている内容じたい、民主共和国、国民主権を取り戻そうというのだ。憲法の基本精神に立ち返ろう、といっているのである。それに市民らが歓呼しているのである。

■「デモもなく…すいすいと」
さて、冒頭の一句である。日本の「まつりごと」にも国民主権の危うさを感じてしまう局面がないわけではい。韓国をカガミに「我が振り」を直したい、という気持ちは私にもある。しかし、なかなかそうもいかない。

「デモもなくカジノ・年金すいすいと」(宮城県 斎藤 光雄)=12月15日付朝日新聞「朝日川柳」

日本の国民、メディアの関心は国民主権といった「まつりごと」よりは、「日本の象徴」「日本国民統合の象徴」のほうに向いているようだ。実際、このところの主要メディアは天皇の「生前退位」に関する報道や解説であふれている。いや、それもまた、広い意味では「まつりごと」の一部なのだろうか。

いま、日韓の「国のかたち」の違いといったことを、改めて思ってしまう。

2016年11月3日木曜日

「満州」への旅⑰――国境の町

龍井一帯を回った後、図們市に向かった。豆満江(中国名・図們江)を挟んで北朝鮮と向かい合い、対岸の北朝鮮内部をうかがうことができる町で、一つの観光スポットになっている。

■大洪水被害
そこでのことをこのシリーズで報告しようと思っていた矢先、11月1日付の朝日新聞朝刊を見て驚いてしまった。国際面に、この場所で私たちが見たものとはまったく違う光景が紹介されているではないか。この夏、この辺りを襲った大洪水で一帯が壊滅的な被害を受け、様相が変わってしまっているというのである。

図們対岸の北朝鮮側は、咸鏡北道の南陽という町である。朝日の紙面には、その町を一望できる図們の丘の上から撮った被災後の写真が載せられている。私たちが図們を訪れたのは6月20日だったが、その際に私も、朝日掲載の写真を撮った平賀拓哉記者とまったく同じスポット、同じアングルでシャッターを切っていた。

私の写真と、朝日の写真を比べてみる。最初の1枚が私の撮った写真で、あとの3枚は朝日新聞の紙面からである。



朝鮮中央通信など平壌のメディアによると、この夏の台風10号と低気圧の影響で、8月末から9月初めにかけ、豆満江流域で観測史上最大の洪水が発生。それに伴う死者・行方不明者は数百人にのぼり、6万8000余人が避難した。9月14日時点の国連の報告では、138人の死亡が確認され、行方不明者は約400人にのぼっているという。
この事態に北朝鮮はいま、国を挙げての復旧作業に取り組んでいる。5月の第7回党大会を受けて6月から始めた生産・建設拡大キャンペーン「200日戦闘」のプログラムに急遽、この辺りの復興を優先的に組み込み、軍を動員して人海戦術を展開しているのだ。

詳細は朝日の紙面に譲るが、図們の対岸の南陽では5階建て前後のアパート建設が夜を日に継いで進められており、完成すれば、付近の眺めはこれまでとは相当変わったものになりそうだ。

■「金日成バッジ」
ここで紹介している写真の下部付近を見ると斜め横に1本の橋がのびている。これは中朝間を結ぶ鉄道橋だが、この少し下流に道路橋の図們国境大橋がある。6月、私たちがこの地を訪れた際には、主に、この道路橋付近を見た。豆満江をまたいで対岸の南陽を結ぶその橋は、長さ500メートル、幅約6メートル。たもとに「1941年11月竣工」と刻んだ橋名板があり、日本がこの辺りを支配していた時代に造られたものと分かる。

橋の手前に展望台があり、双眼鏡が備え付けられている。のぞいてみると、橋の突き当りの建物に掲げられた金日成主席と金正日総書記の肖像が目に飛び込んできた。南陽の鉄道駅舎なのだそうで、階段のようなところを中学生くらいの子どもたちが飛び跳ねている様子も見える。2人の指導者の肖像の横には「栄光ある朝鮮労働党万歳」などと書かれたスローガンが掲げられているのが、木立の間から見えていた。

展望台の土産物店をのぞくと、北朝鮮の「紙幣セット」や「金日成バッジ」が並べられていた。バッジは1個10元。いかにも安っぽく、すぐにまがい物とわかる。その点を指摘すると、引き出しの奥から、いかにもそれらしい「本物」を持ち出してきた。一つずつ綿布で包んであり、こちらは1個200元。「高い」と言ってみると、「大変な危険を冒しているのだから、それだけの価値はある」と声をひそめた。

■減った韓国人観光客
土産物店の話では、このところ観光客はあまり多くない。とくに韓国からの客が、がた減りしているようだ。

私たちがここを訪れた時期、北朝鮮をめぐる情勢はすでに相当緊迫していた。今年1月、北朝鮮が「水爆実験」とした4回目の核実験。2月、国際社会が長距離弾道ミサイル発射実験と見た「人工衛星打ち上げ」。これに対して3月、国連が北朝鮮産鉱物資源の禁輸などを盛り込んだ新しい制裁決議採択をすると、北朝鮮は反発を強め、立て続けに弾道ミサイル発射。韓国政府は年初来、韓国民に中朝国境付近に近づくな、と呼びかけていた。

■のどかさと、緊張と…
展望台を下りて橋に向かう。橋は、入場料を払うと北朝鮮側に向かって中ほど近くまで歩いて行ける。試してみると、公安関係者と思えるTシャツ、トレーナー姿の男が一人ついてきた。観光客用に朝鮮の民族衣装を貸し出す店が近くにあり、それを着て橋の中央付近で記念撮影している中国人の姿も見かけた。橋の下を、屋根がついた小さな遊覧船がくぐっていった。

しばらく見ていると、北朝鮮側から2台の大型トラックがやってきた。ゆっくり、のろのろと近づいてくる。ここにはスピードがまったくふさわしくない雰囲気がある。のどかなようで、どこかに漂う緊張感……。不思議な気持ちに誘われるなか、トラックの積み荷をそれとなく見ると、石炭だった。












■指呼の間
石炭でいえば、年初の第4回核実験のあと、国連の制裁決議で北朝鮮からの石炭輸出は原則禁止となったが、「民生目的」は対象外とされてきた。北朝鮮はその後、9月に第5回の核実験を強行したため、いま、さらなる制裁として石炭の全面禁輸も国連の場で論議されている。

こんな中で中国は、北朝鮮の核実験そのものには「断固たる反対」(中国外務省声明)を表明しながらも、制裁強化一辺倒のアプローチには反対しており、対話による解決を求めている。

10年前、中朝の国境を分ける豆満江の川沿いを源流近くまで中国側から遡ってみたことがある。当然、川幅は狭くなり、浅瀬も多い。川沿いの朝鮮族住民からは「朝鮮側と川越しに声を掛け合うこともある」という話も聞いた。まさに「指呼の間」である。

その時のことを思い起こすと、中国側の気持ちは分からないことはない。中朝の国境線は、日本海に流れ込む豆満江と黄海に注ぐ鴨緑江を中心に東西約1400キロに及ぶ。そこでは各地で国境貿易も行われている。そんなところで制裁をこれ以上強めると、どうなるというのか。

最近、国連での「核兵器禁止条約」をめぐる各国のやりとりをみていて思ったことがある。もとより、北朝鮮の核開発を擁護するものではないが、日米のように、自らの核抑止論を正当化して禁止条約に反対し、北朝鮮に一方的に核放棄を迫る姿勢にどれほどの説得力があるというのか。

北朝鮮の核問題解決には話し合いしかない。図們で思ったのも、そんなことだった。