文在寅氏はどんな政策を掲げ、何を訴えているのか。韓国の保守系有力紙「朝鮮日報」の電子版が今年1月16日、文在寅氏との長文のインタビュー記事を比較的まとまった形で載せていた。: http://news.chosun.com/site/data/html_dir/2017/01/16/2017011600954.html
その一問一答の中から、とくに目を引いた部分をピックアップし、拙訳で紹介する。
ムン・ジェイン
1953年1月 慶尚南道巨済島生まれ。
72年 慶煕大学法学部入学。
75年 学生運動で投獄。
78年 兵役(特戦司令部空挺部隊)除隊。
80年 慶煕大卒、司法試験合格。
82年 廬武鉉弁護士(のちの大統領)と釜山で合同法律事務所を開設。
2002年 廬武鉉大統領候補の釜山選対本部長。
03年、05年 大統領府民情首席秘書官。
07年 廬武鉉大統領秘書室長。
09年 廬武鉉氏の国民葬委員長。
12年 国会議員、野党大統領選候補として朴槿恵大統領に惜敗した。
(写真は、いずれも文在寅ホームページから)
■慰安婦問題は再協議を
―慰安婦問題で日本との再協議を主張している。
そもそも合意はあったのか。私にはよく分からない。いったい、どのような合意をしたのか、韓国政府は明らかにしていない。合意内容に関する説明も両政府間で異なる。韓国政府は10億円には謝罪と賠償の意味が込められているというが、日本はそうではないと言う。
(慰安婦被害を象徴する)少女像に関しても韓国は合意していないというが、日本は駐韓大使の召還(ママ)措置まで…それに両国の通貨スワップ協議まで中断したではないか。そうしておいて、まるで韓国が詐欺でもしたかのように言っている。韓国政府はそのような合意はしていないという。慰安婦問題の本質は、日本がそれについて法的責任を認め、公式的に謝罪することだ。それが盛り込まれていない合意は認めることができない。
―政権をとれば、再協議するつもりか。
再協議すべきだと思う。ただ、朴槿恵政権はこの問題が解決しなければ、日本とは何もできないと前提条件にして自らの手足を縛ってしまった。とんでもないことをしたものだと思う。両国関係を発展させていくうえで、この問題を前提条件としてはだめだ。この問題はこれとして話し合い、一方で、未来の関係についてはまた、別のこととして発展させていくべきだ。
■核問題は制裁や圧迫では解決できない
―北の核問題は、保守・進歩という立場を離れ、正常化という次元で放棄させなければならないのではないか。
その通りだ。実用的な態度が求められている。理念的なモノサシだけで「北は軽蔑の対象」と見ていては解決できない。これまで行ってきた制裁と圧迫は国際的な共助の下でなされるべきなのは当然だ。ある意味、私はもっと強力な制裁、圧迫が必要な場合もありうるとみている。
ただ、それですべてということではないということだ。それでは解決できず、結局のところ、対話と協議を並行すべきなのだ。強い制裁や圧迫も究極のところ、話し合いのテーブルに北を引き出して核の廃棄を受け入れさせるのが目標ではないのか。
■開城工団は再開すべきだ
―核問題とは関係なく、開成工団を再開すると言っている。国際社会の制裁と噛み合わないのではないか。
国連決議案から開城工団は除外されてきた。北を変えていくには多くの努力をしなければならないが、開城工団にあって、我々が北に進出して市場経済を持ち込めば、こちらの体制の方が優っていることを北に見せてやることができる。北が韓国に依存するようにすることが核問題の解決に役立つ。そのようなテコをもっていてこそ核問題の解決につながる。すべてを絶ち、悪口を言っているだけで、どうして北の核問題を解決できるというのか。
―米国は国際社会の制裁に向けて韓国に開城工団をやめろといい、中国は、韓国が開城工団をやりながらどうして中国に制裁しろと求めるのか、ということにならないか。
開城工団は国連の制裁決議から除外されている。朴槿恵政権は、(朴槿恵大統領の友人の)崔順実(の政治介入)が作用したためかどうか、理解できない決定をしてしまった。韓国企業が撤収するにあたっても時限や余裕を与えず、原資材のようなものをいっさい持ち出せなくしてしまった。
―なら、再開しても国際社会が問題にしないとみるのか?
当然でしょう。(開城工団撤収は)全世界がみな理解できなかったはずだ。
■金剛山観光も韓国の方に利得
―金剛山観光は安全措置さえとられれば再開すると言っている。現金支援は問題にならないか。
(開城工団の場合と)同じことだ。金剛山観光の場合も北の地に韓国の企業が入っていき、その地域を租借したも同然なのだ。得失を計算すると、韓国が何百倍、何千倍という利得がある。
―かつてと同じように北に現金を与える形の金剛山観光もとくに問題はない、と?
経済協力を広げていくことが、北自らが不安がっている体制崩壊の恐怖を減らし、孤立から抜け出て開放に向かうようにさせる。そんな中で北の核問題を解決していこうというのだ。
■サード(THAAD)配置の問題は次期政権で
―米軍の高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD)を次期政権に持ち越そうと主張している。撤回を前提としているのではないか。
広く世論に問うて決めようというのだ。撤回を決め込んで次期政権に引き継ごうというものではない。韓米間で合意がなされたものをそう簡単に取り消せるとは考えていない。
ただ、国内で国会の同意といったことは欠かせない。対外的にも中国とロシアに対する外交的な説得の努力が必要だ。そのような過程を経ずにサード配置が決まった。それで、この問題を次期政権に持ち越せば、そこで国会の批准を含む公論化の過程を踏めるし、中国とロシアを説得する機会も持てると思う。
■作戦統制権返還はできるだけ早く
―(在韓米軍から韓国軍への)戦時作戦統制権の返還問題は事実上、無期限延期となっている。政権につけば、また、任期内の返還を推進する考えか?
任期内に実現できるかどうかは分からないが、戦時作戦権はできるだけ早く返還されてこそ、韓国の国防が不完全な状態を脱して自主国防が実現できると考えている。いまのように莫大な国防予算を使いながら全体的な作戦統制権は米国に与える、つまり、空軍と海軍力は米国側にあり、韓国は陸軍と歩兵が中心というだけでは、とてつもない予算の投入にもかかわらず、完全な安保ということにはならない。
■大企業、金持ちより国民のための経済を
―国民生活は苦しい状況にある。経済公約は?
具体的な方策について言えば、まずは働く場所、2番目に財閥改革、3番目が大企業と中小企業の公正な共存、そして非正規職・最低賃金問題の改善といったところだ。韓国はこの間、輸出中心の成長戦略をとってきたが、輸出と内需を並行させる成長戦略に転換しようというのだ。
■忘れられない金大中元大統領の言葉
―政治の世界に入り、大統領選にまで出ようと決心したのには、何か特別のきっかけでもあったのか?
廬武鉉元大統領が亡くなった後、金大中元大統領が語ったいくつかの言葉が胸に響いた。廬武鉉大統領の葬儀に当たっては、健康が思わしくないのに猛暑の中を参列され、嗚咽する姿も見せて下さった。
金大中大統領は廬武鉉大統領の死について「私の体の半分が壊れていくような感じだ」と言われた。そんな金大統領への感謝と慰労を兼ねて食事の席に案内した。それが金大中大統領との最後の食事となった。
「まったく…私が一生涯をかけて成し遂げた民主主義、南北関係が壊れていくのを見ていると、まるで夢の中の出来事のように思えてしまう。必ずや政権交代をしなければならない。いまの民主党では政権交代は不可能だ。市民社会も巻き込んだ野党勢力全体の統合をなさねばならない」
「それには仮に民主党の勢力が7あったとして、統合対象勢力が3だからといって民主党が7を取り、相手方に3を与えるというのでは統合はできない。7の民主党が3を取り、3の市民社会に7を与えるとき、初めて統合がなる。そのような精神で統合しろ。私はもう年老い、力もないので若い君たちの力で必ずや統合を成し遂げてほしい」
そのように頼まれたことが、ずっと心に残ってきた。それで、統合運動をやり、そうした責任感から国会議員選挙に出馬した。
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