2019年7月20日土曜日

「日本は反人道、人権侵害で国際法違反」/韓国、正面から反論/全訳・青瓦台ブリーフィング

日韓関係を揺るがす元徴用工問題は、韓国側が真っ向から反論に出てきたことで新たな局面に入ったようだ。

719日午前、河野太郎外相は南官杓・駐日韓国大使を外務省に呼んで抗議。席上、外相は大使の言葉を途中で遮り、「極めて無礼だ」と声を張り上げた。韓国側は「外相こそ無礼」と反発、その日午後、ソウルの青瓦台(大統領府)で金鉉宗・国家安保第2次長が記者会見し、厳しく日本政府を批判した。

金次長は、韓国側を「国際法違反」と非難する日本政府に対し、「日本の方こそ、国際法違反だ」と反論、改めて輸出規制措置の撤回を求めた。
https://www1.president.go.kr/articles/6828

以下は、青瓦台のホームページに載せられた金鉉宗氏のブリーフィング内容の全訳である。(波佐場 清訳、見出しは訳者が付けた)

■「日本の方こそ、国際法違反」
本日午前、日本の河野太郎外相が南官杓駐日大使を呼んで強制徴用問題に関する日本の立場を伝達し、談話を発表しました。これについて次のような点を指摘したいと思います。

まず、韓国が国際法に違反しているという日本側の変わらぬ主張、これは間違っています。

韓国大法院は、1965年の韓日請求権協定は強制徴用者に対する反人道的犯罪および人権侵害を含めたものではなかった、とする判決を下しており、民主国家の韓国としてはそのような判決を無視することも廃棄することもできません。

韓国政府は強制徴用問題を解決するため日本側と外交チャンネルを通して通常的な話し合いを続けて来ました。ところが、その外交努力が十分に尽くされ切っていない状況にあって、日本は一方的な輸出規制措置を取りました。これはWTOの原則、自由貿易の規範やG20大阪首脳会議で発した自由貿易の原則、さらにはグローバル・バリュー・チェーン(GVC)にも深刻な打撃を与えるという点で、国際法に違反した主体はむしろ日本であるといえます。

何よりも根本の問題として指摘しておきたいのは、強制徴用という反人道的な不法行為によってまず初めに国際法に違反したのはまさに日本であった、という点です。その点を韓国大法院判決は指摘したのです。

■「仲裁期限は日本側が一方的、恣意的に設定」
また、日本は請求権協定上の仲裁を通した問題解決を引き続き主張しているが、我々としては日本側が設定した一方的、恣意的な期限の区切りに同意したことはありません。

併せて一般的に2つの国が仲裁手続きを通して紛争を解決しようとしても、結果的に「一部勝訴、一部敗訴」となるケースが多く、問題の根本的な解決は難しいのです。長期間にわたって仲裁手続きが進む過程では両国民間の敵対心が大きくなり未来志向の関係にも否定的な影響を及ぼし得ます。

■「建設的、合理的な提案なら話し合える」
それにもかかわらず我々は強制徴用問題を外交的に解決することが重要という認識のもと、あらゆる建設的な提案にオープンという立場であり、日本側に提示した大法院判決履行問題の円満な解決案を含め両国国民と被害者の共感を得ることのできる合理的な案について日本側といっしょに話し合っていくことができるという立場です。

日本は輸出規制措置を取りながら、その根拠として当初、過去の問題による信頼の阻害に言及していたのに、その後、輸出管理の上で不適切な事案が発生したと言い、今日はまた、強制徴用の問題を取り上げました。日本の立場とは一体どんなものなのか、相当な混乱ぶりです。

こんななか、日本は不当な輸出規制措置を撤回し、状況をさらに悪化させる発言や措置を取らないよう強く求めます。

今日、南官杓大使は日本のアニメ会社で発生した火災で多くの死傷者が出たことに哀悼の言葉を伝え、河野太郎外相はこれに謝意を表しました。

     ◇   ◇
国際法に違反しているのは韓国なのか、それとも日本なのか――。元徴用工をめぐる日韓の激しいやりとりのなか、そんな問題が浮上してきている。

■「完全かつ最終的に解決」
日本政府は、日本企業に賠償を求めた韓国大法院判決に対し「国際法の常識では考えられない」と反発、韓国政府に是正を求めてきた。安倍首相は、韓国大法院の判決が確定した昨年1030日、記者団に「1965年の日韓請求権協定によって完全かつ最終的に解決している」「判決は国際法に照らして、ありえない判断だ。日本政府として毅然と対応していく」と語った(20181031日付読売新聞)。

今回、河野外相は外務省に南官杓大使を呼んだ席で「昨年の韓国の大法院判決で韓国側に国際法違反の状況が生じている。国際法違反の状況の是正を速やかにやっていただくよう強く求めた」と記者会見で明らかした。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/kaiken/kaiken4_000850.html

河野外相はこの会見後に出した「外務大臣談話」で次のように指摘した。

「我が国は、国際社会における法の支配を長く重視してきた。国家は国内事情のいかんを問わず国際法に基づくコミットメントを守ることが重要との信念の下、昨年の韓国大法院の判決並びに関連の判決及び手続きにより韓国が国際法違反の状態にあるとの問題を解決する最初の一歩として…」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/danwa/page4_005119.html

要するに、これは「1965年の請求権協定で「完全かつ最終的に解決」した問題で、元徴用工に賠償を命じた大法院判決は国際法に反する、というのである。

■「反人道」「人権侵害」の指摘を重視
韓国大法院判決は、次のような論理で、元徴用工らの損害賠償請求を認めたのだった。

そもそも元徴用工らの損害賠償請求権は、日本政府の朝鮮半島に対する不法な植民地支配や侵略戦争の遂行と直結した日本企業の反人道的な不法行為を前提とした強制動員被害者の日本企業に対する慰謝料請求権であって、日韓請求権協定には含まれていなかった――。

今回、金鉉宗氏のブリーフは、「反人道的犯罪」や「人権侵害」について指摘したこの大法院判決を引用し、「民主国家の韓国としてはそのような判決を無視することも廃棄することもできない」と、あくまで植民地支配や侵略戦争に関係した日本企業の責任を問うていこうという姿勢を確認したのである。

■「日本は法の支配を重視」
韓国の歴代政権はこの間、元徴用工問題について「1965年の日韓政府間の請求権協定で決着済み」との立場をってきた。日本政府としては「ここへ来て文在寅政権がそれをひっくり返そうとしている」というふうに映る。さきに見たように、河野外相の「外務大臣談話」に、
「我が国は、国際社会における法の支配を長く重視してきた。国家は国内事情のいかんを問わず国際法に基づくコミットメントを守ることが重要」
と書き込んだのも、そうしたことが背景にある。

「韓国はいちど交わした約束を簡単に破る」「国際ルールを守らず、その都度、ゴールを動かす」。こんな不信が日本で語られるのも事実だ。「日本人は悪法も法として守るが、韓国人は正義の前には法を無視していいと考える」といった具合に民族性の違いを説く人もいる。

河野外相が「大臣談話」で言及した「法の支配」とは、どういうことなのか。

■「法の支配」と「法治国家」は違う
芦部信喜著『憲法』(岩波書店)は「法の支配」について、「法治国家」とは違うとして次のようなことを書いている。
▽近代立憲主義憲法は、個人の権利・自由を確保するために国家権力を制限することを目的とするが、この立憲主義思想は法の支配(rule of law)の原理と密接に関連する。

▽「法の支配」の原理と類似するものに、戦前のドイツの「法治主義」ないしは「法治国家」の観念がある。この観念は、法によって権力を制限しようとする点においては「法の支配」の原理と同じ意図を有するが、少なくとも、次の二点において両者は著しく異なる。
第一に、「法の支配」は、立憲主義の進展とともに、市民階級が立法過程へ参加することによって自らの権利・自由の防衛を図ること、したがって権利・自由を制約する法律の内容は国民自身が決定すること、を建前とする原理であることが明確になり、その点で民主主義と結合するものと考えられたことである。これに対して、戦前のドイツの法治国家の観念は、そのような民主的な政治制度と結びついて構成されたものではない。もっぱら、国家作用が行われる形式または手続きを示すものにすぎない。したがって、それは、いかなる政治体制とも結合しうる形式的な観念であった。

第二に、「法の支配」に言う「法」は、内容が合理的でなければならないという実質的要件を含む観念であり、ひいては人権の観念とも固く結びつくものであったことである。これに対して、「法治国家」に言う「法」は、内容とは関係のない(その中に何でも入れることができる容器のような)形式的な法律にすぎなかった。そこでは、議会の制定する法律の中身の合理性は問題とされなかったのである。

■日本に問われる人権意識
目を引くのは、「法の支配」に言う「法」は、人権の観念とも固く結びつくものであったことである、との指摘である。 河野外相のいう「法の支配」は、人権の観念を十分に意識したものなのか、どうか。もし、人権意識が十分でなかったとしたら、その意味するところは、ただの形式的な「法治主義」になってしまう。

日本政府は元徴用工の問題を、どれほど人権の問題としてとらえているのか。もし、人権意識が十分でないとしたら、「反人道」「人権侵害」を真正面から掲げる韓国を向こうに回して、こんご論争の主舞台になると予想される国際社会でたたかっても勝ち目はない。

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