2019年7月17日水曜日

日本政府に深い不信/全訳・文在寅大統領発言

日韓関係は、ただならぬ様相である。直接の引き金となったのは韓国に対する日本政府の半導体原料輸出規制だが、韓国人元徴用工問題への対抗を意図したものであることは間違いない。実際、日本の新聞は「元徴用工訴訟を巡る問題で、解決に向けて対応しない韓国への事実上の対抗措置」(72日付読売新聞)などと書いてきた。

日本政府もその脈絡でこの問題を語ってきたのは事実である。


今年1月、安倍首相はテレビ番組で徴用工問題に関し「国際法に基づき毅然とした対応をとるため、具体的な措置の検討を関係省庁に指示した」と言っていた。麻生副総理兼財務相も国会答弁のなかで、「送金の停止、ビザの発給停止とかいろんな報復措置があろうかと思う」(312日、衆院財務金融委員会)と述べていた。

■「対抗措置」を否定
ところが、不思議である。輸出規制措置発表後は、徴用工問題への対抗措置であることを日本政府は一切、否定している。経済産業省の発表文(71日付)は「韓国向け輸出管理の運用の見直しについて」と題し、①輸出管理面で日韓間の信頼関係が著しく損なわれた②韓国に関連する輸出管理をめぐり不適切な事案が発生した――などとしている。

政府は「安全保障面で問題のない国としての優遇措置をやめる」ということだ、とも説明している。一方で、輸出管理をめぐって発生したとする「不適切な事案」については具体的には明らかにしていない。
どうしてこんなことになったのか。

714日付朝日新聞を読んで得心がいった。箱田哲也・論説委員は「社説余滴」欄で次のように書いていた。
<昨年秋、徴用工裁判で日本企業に賠償を命じる判決が確定した後、政府は省庁別に対抗策を検討させた。
多くの案の中で、ことの深刻さを伝えるには手荒なまねをせざるをえないとの判断から、対韓強硬派の政治家らが推していた今回の措置を決めた。

政府内で「対抗措置ではない」と主張できる理論武装を重ね、G20サミットの閉会を待って発表した>

■貿易の世界に政治を持ち込む
なるほど、という思いである。
徴用工問題への対抗措置ということになれば、政治問題を経済の分野に持ち込むことになる。それは日本が重視してきた自由貿易の原則をゆがめることにつながる。実際、この対韓輸出規制発表の直前まで大阪で開かれていたG20首脳会議では議長国・日本が主導し「自由、公正な貿易の実現」を宣言したばかりだった。政府はそのことに対する批判を恐れているのである。

しかし、どう言い繕おうと、本質は見透かされる。米経済紙、ウォールストリート・ジャーナルが「政治と貿易のない交ぜ」と批判するなど、日本の今回の措置には世界から厳しい目が向けられている。

戸惑うのは、一部メディア、とくにテレビの豹変ぶりである。日本政府の今回の対韓輸出規制発表当初は「対抗措置は当然」と言い募りながら、発表後は政府の言い分に合わせて安全保障の問題にすり替える。「コメンテーター」を名乗る一部テレビ出演者の「波乗り」ぶりには、見ている方で赤面するばかりである。

■異常、異様な会合
それにしても、まったく異常、異様としか言いようがない。
対韓輸出規制後、日韓当局者の初の会合が712日、東京・霞が関の経産省で開かれた。テレビが映し出した、その冒頭部分の様子をみて驚いた。

課長レベルの会合。殺風景な部屋にノーネクタイ、クールビズの日本側の2人がまず現れ、席に着く。そのあと、ネクタイ、スーツを着込んだ韓国側の2人が部屋に入り、持ってきたリュックを足元に置いて対面の椅子に座る。

机の上にはわずかばかりの資料のようなもの以外、何もない。双方の間から見える壁際のホワイトボードには、「輸出管理に関する事務的説明会」と印刷された紙一枚が張られている。テレビ画面を見ている限り、双方の表情は硬直し、言葉のやり取りなどは一切なかった。

このような国際会合の場合、普通に考えると、迎える側が入り口で応対し、言葉を掛けあって握手の一つでも交わすのが常識というものだ。ところが、今回、日本側は会釈もせず、椅子に座ったまま、立ち上がろうともしなかった。

■「水一杯のもてなしもなく」
韓国のメディアはこれを「日本側は会場場所を壊れた機資材が転がる倉庫に決め、水一杯ももてなさないなど、あらゆる欠礼をおかした」(韓国経済新聞社説)などと書いた。

いくら「おもてなし」の国とはいえ、とても、もてなしなどできる状況になく、間違ったサインを送ってもいけないといえば、それまでである。しかし、あまりにも狭量すぎないか。どんな場合であれ、相手が部屋に入ってきたら、立ち上がって迎えることぐらいは常識ではないか。これでは、こどものけんか以下である。

日本側がこれを「説明会」と位置づけるのなら、相手方を少しはなごませる工夫も必要だろう。これでは、ただ、けんかを大きくしようとしているだけと見られても仕方がない。「相手に恥をかかせ、やっつけてやった」ということで、あるいは気分がせいせいするかもしれないが、問題の解決には何の役にも立たない。

これが日本のエリート役人の流儀だとはとても思えない。指示はどのレベルの、誰から出ていたのか。

■文在寅大統領の発言内容
この問題はこの先、どう解決していけばいいのか。カギの一つが文在寅大統領の手に握られていることは間違いない。文大統領はそもそも何を考えているのか。

その文在寅大統領は715日、大統領府での首席秘書官・補佐官会議でこの問題について自ら語った。そこには日本政府に対する強い不信がある。その言い分の是非はともかくも、ここはいったん、その声を冷静に聞いてみることも必要だろう。
https://www1.president.go.kr/articles/6804
以下はその全訳である。(見出しは訳者が付けた)


青瓦台HP 首席秘書官・補佐官会議
■「過去」は、経済問題と別途

過去の問題は韓日関係において懐中のトゲのようなものです。ときどき、私たちを痛く突き刺します。しかしこれまで両国は、過去の問題は別途に管理しつつ、それによって経済、文化、外交、安保分野の協力が壊れないよう知恵を絞ってきました。

私もやはりこの間、過去の問題は過去の問題として知恵を絞って解決しながら、未来志向の関係発展のためにいっしょに協力していくべきだと強調してきました。日本が今回、これまでになく過去の問題を経済問題に絡ませてきたのは両国関係発展の歴史に逆行する、まったく賢明といえない仕打ちだという点をまず、指摘しておきます。

強制徴用被害者に対する大法院判決を履行する問題で、韓国政府は円満な外交的解決案を日本政府に示してきました。私たちが示した案が唯一の解決策だと主張したことはありません。両国民と被害者の共感が得られる合理的な案についていっしょに話し合ってみようというものでした。しかし日本政府は何らの外交的話し合いや努力もなく、一方的な措置を電撃的に取りました。日本政府は一方的な圧迫をしまい込み、いまからでも外交的解決の場に戻るよう望みます。

日本は当初、強制徴用に対する韓国大法院の判決を今回の措置の理由として掲げていたのに、個人と企業の間の民事判決を通商問題と結びつけることに国際社会の支持が得られないと分かると、韓国側に戦略物資の密搬出や対北制裁履行違反の疑惑があるかのように言葉を翻しました。

■朝鮮半島平和プロセスへの挑戦
私たちは4大国際輸出統制体制を模範的に履行するだけでなく、国連安保理決議を順守し、制裁の枠内で南北関係の発展と朝鮮半島平和に総力を挙げています。今回の日本側の措置は、そんな韓国政府に対する重大な挑戦です。

また、それは、韓国政府の努力を支持し朝鮮半島の平和プロセスに参加している国際社会の共同努力に対して不信を惹起するものでもあります。日本がそのような疑惑を実際に持っているのなら、友邦として韓国にまず問題提起をするなり、国際監視機構に問題提起をすればいいのであって、事前に一言もなく、いきなり疑惑を提起してきました。

今回、論争の過程で、むしろ日本の輸出統制の方に問題があったことが分かったりもしました。この点についてはもうこれ以上消耗的な論争をする必要はないと思います。日本が疑惑を撤回する考えがないなら、すでに韓国政府が提案したとおり、両国が共に国際機構の検証を受けて疑惑を晴らし、その結果にしたがえば済むことです。

■日本経済により大きな被害
韓国経済と日本経済は深く結びついています。国交正常化以後、両国は互いに助け合い、いっしょに経済を発展させてきました。とくに製造業分野は韓国が莫大な貿易収支の赤字を出しながらも国際分業秩序の中で部品・素材から完成品生産まで、全過程で緊密に連携していっしょに成長してきました。

今回の日本の輸出制限措置は相互依存と相互共生で半世紀にわたって蓄積してきた韓日経済協力の枠組みを壊すものです。私たちが日本政府の輸出制限措置を厳しく見ざるをえない理由はここにあります。

今回の日本の輸出制限措置は自国産業の被害を防ぐための通常的な保護貿易措置とは方法も目的も異なります。韓国は日本政府のこんどの措置が韓国経済の競争力の中核をなす半導体の素材への輸出制限で始まったという点に注目せざるを得ません。これは韓国経済がさらに一段階高い成長をめざそうとする時期に韓国経済の成長を妨げようとするものにほかなりません。

日本の意図がそこにあるのなら、決して成功はしないでしょう。韓国企業が一時的な困難に陥ることはありえますが、私たちは過去に何度か全国民の団結した力で経済危機を克服してきたように今回も困難に打ち勝っていくでしょう。

むしろ日本との製造業分業システムの信頼を壊し韓国企業が素材、部品、装備の日本依存から抜け出して輸入先を多角化したり国産化の道に進んだりすることでしょう。結局、日本企業により大きな被害が及ぶであろうことを警告しておきます。

■外交努力尽くし、企業を支援
韓国経済にあって今回のことを「禍を転じて福と為す」機会とするという政府の意志は確固不抜です。政府は外交的解決のためにあらゆる努力を尽くしますが、一方で、企業がこの状況に自信をもって対応していけるよう、いかなる支援も惜しみません。これまでに推進してきた経済体質改善のための努力にもいっそうの拍車をかけていきます。

私たちはどんなことがあってもこの状況を克服していきます。国民のみなさんも自信を持ち、企業が困難に打ち勝つことができるよう力を合わせてくださるようお願いします。

韓国の国力は多くの危機を克服しながら育ててきたものです。私たちは今よりももっと困難な挑戦に打ち勝ち、今日の大韓民国に到達しました。多くのヤマ場、兆戦に打ち勝ってここまで来られたのも常に国民の力のおかげでした。私と政府は一貫して国民の力を信じ、厳しい状況を乗り切っていきます。

国会、政界の党派を超えた協力もお願いします。いまの経済状況を厳しく見れば見るほど協力を急いでくださるものと切にお願いする次第です。それこそが政府と韓国企業が厳しい状況を克服できる最大の力となることでしょう。(波佐場 清訳)

0 件のコメント:

コメントを投稿