韓国の尹錫悦大統領が出した「非常戒厳」めぐり、大統領罷免の可否を判断する憲法裁判所の弾劾審判が最終局面を迎えている。韓国メディアは「3月中旬にも憲法裁の判断が示される」との見方を示している。大統領は何を問われたのか。2月25日の最終弁論で「罷免」を求めた国会弾劾訴追団代表、鄭清来(チョンチョンレ)法制司法委員長(「共に民主党」議員)の40分余にわたった最終陳述をここに全訳で紹介したい。(小見出しは訳者が付けた)
波佐場 清
[풀영상] "尹, 몽상 빠져있던 권력자..응분의 책임 물어야/파면으로 헌법수호" '尹 탄핵심판' 최종변론, 국회 소추위원 정청래 최종진술 - [MBC뉴스] 2025년
02월
25일
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憲法裁の最終陳述で「尹錫悦罷免」を訴える鄭清来議員 フェイスブック |
■尹錫悦は罷免すべきだ
尊敬する憲法裁判所の裁判官のみなさま、大韓民国の運命を左右する現職大統領にたいする弾劾事件を審理する間、その歴史的重圧にどれほど苦労が多かったことでしょうか。民主主義と憲法を守るための熱情で一貫してこられた裁判官のみなさまのご労苦と献身に国民の一人として敬意を表します。
大韓民国の民主主義と国家発展のために、被請求人尹錫悦は罷免されなければなりません。「12・3内乱」[尹錫悦大統領による2024年12月3日の「非常戒厳」宣言のこと――訳者注/以下[ ]内はいずれも訳者注]の夜、全国民がテレビの生中継で、国会を侵奪した武装戒厳軍の暴力行為を見守りました。天も地も知っていることです。天は戒厳軍のヘリコプターの轟音をはっきりと聞き、地は武装した戒厳軍の軍靴を見ました。池の水面(みなも)に浮かんでいた月影も目撃者です。全国民が目撃者であり、全世界の外電も韓国の非常戒厳親衛クーデターをリアルタイムで打電しました。内乱首謀の被疑者尹錫悦を罷免すべき、必要かつ十分な条件はすでに熟しています。
■違うと、間違っているは違う
大韓国民5千万の国民の考えがみな同じであるということはあり得ません。男女の違いがあり、生まれた日時や地域、環境、文化も違います。それで、考えも違い、意見、主張も違います。しかし違うということと間違っているということは区別しなければなりません。自分の考えと違うからといってほかの人が間違っているということにはなりません。自分の考えと違うからといって、差別してはなりません。政治的見解が違うといって嫌悪し、蔑み、弾圧してはなりません。ましてや権力を悪用して相手を弾圧、除去の対象としてはなりません。ひとり一人の人間が天下なのであり、宇宙なのです。夜空に浮かぶ星のように国民ひとり一人がみな、尊重されなければなりません。これが憲法第10条で定めた「すべての国民は人間としての尊厳と価値を持ち、幸福を追求する権利を持つ。国家は個人が持つ不可侵の基本的人権を確認し、これを保障する義務を持つ」という基本権条項を貫く根本原則なのです。
■国民が国の主人である
大韓民国は国民、主権、領土から成っています。国民がすなわち国家なのです。国民は国家を愛し、国家は国民の生命、財産、安全を保障しなければなりません。国民は国家を愛するがゆえに愛国歌を歌い、国旗に誓うのです。大韓民国の国民は考えが違っていても愛国歌と太極旗を愛しています。国家のために個人を犠牲にして献身、奉仕する愛国心は大韓民国の国民が一番です。大韓民国の国民は国を愛しています。壬辰倭乱[日本でいう「文禄・慶長の役]、日帝強占[日本による植民地支配]、韓国戦争[朝鮮戦争]、軍部独裁から国を守ったのも国民であり、国を発展させたのも国民です。腰ひもを引き締め直して子どもたちを教育し、今日の民主化と産業化を達成した主人公は、わたしたちの祖父母であり父母、つまりは国民だったのです。映画『パラサイト 半地下の家族』、『イカゲーム』、BTS――といった文化強国、オリンピックで金メダルをとるスポーツ強国大韓民国を達成したのは誇るべきわが息子、娘たちでした。国を守ったのも国民、国を発展させたのも国民、国も主人も国民です。
■すべての権力は国民に由来する
大韓民国国民は憲法を愛しています。憲法は、考えや主張、意見が違うとき、大韓民国はこの方向でいこうと決めている国民にたいする合意文書です。国民全体の約束であり、国民が守らなければならない国家の里程標です。憲法は羅針盤です。憲法は国民であり、愛国歌であり、太極旗です。大韓民国の国民はだれも憲法の上にあって君臨することはできません。大韓民国の主権は国民にあり、すべての権力は国民に由来するということ、これが第1条でうたう民主共和国の憲法精神です。
ところが、国と憲法を愛する国民を銃剣で殺そうとし、血で守ってきた民主主義を踏みにじり、血をインクとして一字一字を書き刻んだ憲法を破壊しようとした人物がいます。血で書いた民主主義の歴史を舌で消そうとしたのです。銃剣で憲法と民主主義の心臓である国会を蹂躙しようとしたのです。いま、この弾劾審判場にいる被請求人尹錫悦です。
■不寛容によってできた「寛容の国」
憲法擁護の最後の砦(とりで)である憲法裁判所の裁判官のみなさま。
フランス共和国は寛容によってできたものではありませんでした。民族反逆者には公訴時効がないとしてナチス加担者を最後まで追跡して不寛容に処罰したことによって逆説的にも寛容の国、トレランスの国になることができました。今日の文化芸術の強国フランスはこうして建設されたのです。
これに対してわたしたちは1945年8月15日の光復後、反民特委[解放後、日本統治時代に親日活動をおこなった者を処罰するために国会内に設けられた反民族行為特別調査委員会]の挫折によって親日加担者を処罰できず、その結果、正義と不義、愛国と売国、民主主義と独裁が混在して民主主義にたいする挑発や反対のうごめきは止みませんでした。もはや堕落し汚染した反民主主義的、反憲法的な饒舌と詭弁の連環は断ち切らなければなりません。行く道がどれだけ遠いといっても民族の精気を正すべきです。
■民主主義の主敵
平和や文化が花開く文化芸術強国は民主主義の土壌で育つ木です。民主主義の礎(いしずえ)は国家発展の土台です。民主主義発展のプロセスが国家発展のプロセスです。民主主義の定着なしに国家の発展をなした国はありません。先進国家のなかに独裁国家はありません。民主主義と国家発展の主敵がまさに独裁です。国家発展のためには独裁の毒を抜かなければなりません。独裁の典型的な姿が非常戒厳、内乱、そして永久執政の陰謀です。被請求人は2022年5月10日、国会において就任しました。憲法第69条にしたがって「憲法を順守し、国家を保衛します」という宣誓をして大統領に就任しました。しかし、被請求人は憲法を順守し、国家を保衛すると誓った、まさにその場所である国会に戒厳軍を送って侵奪し、憲法を蹂躙しました。大韓民国の憲法と民主主義を抹殺しようとした被請求人尹錫悦は罷免されて当然です。
現職大統領には刑事不訴追権という憲法上の特権があるが、現職大統領といえども内乱の罪を犯したときは憲法守護の次元から不寛容でなければなりません。それが憲法第11条[国民の平等]と第84条[刑事上の特権]の精神です。内乱の犯罪は現職大統領を含め誰であっても例外なく処罰の対象です。この間、国会の法律代理人たちは違憲・違法な「12・3非常戒厳」と罷免理由について、その証拠と法理をすでに数回にわたって明瞭に説明しました。わたしは国民の立場から国民の声を込めて被請求人を罷免すべき理由についていま一度、申し述べたいと思います。
■戒厳の条件に違反
第一に、被請求人尹錫悦は憲法第77条で規定された戒厳の条件に違反しました。憲法第77条第1項は「大統領は戦時・事変またはこれに準ずる国家非常事態において兵力で軍事上の必要に応じたり公共の安寧秩序を維持する必要があときには、法律の定めるところによって戒厳を宣布できる」となっています。12月3日の大韓民国は戦時・事変またはこれに準ずる国家非常事態でもなく、兵力で軍事上の必要に応じたり公共の安寧秩序を維持する必要はありませんでした。平穏な一日でした。兵力で公共の安寧秩序を害した張本人が被請求人です。戒厳宣布は論難の余地がない明白な違憲行為です。
■手続きも不当
第二に、被請求人尹錫悦は戒厳宣布の手続き面の正当性に反しました。憲法第82条は「大統領の国法上の行為は文書でおこない、その文書には国務総理と関係国務委員が副署する。軍事に関したこともまた、同じ」としています。戒厳法第2条第5項は「大統領が戒厳を宣布したり変更しようとするときは国務会議の審議を経なければならない」となっています。同じく第6項は「国防部長官[国防相]または行政安全部長官[行政安全相]は国務総理[首相]を経由して大統領に戒厳の宣布を建議することができる」となっていますが、被請求人は憲法第82条や戒厳法第2条のすべてに違反しています。戒厳宣布時、正常な国務会議の審議がありませんでした。国務委員らの証言によると、国務総理を経る手続きもとっておらず、開会宣言、案件説明など、正常な国務会議も副署した議事録文書も存在していないようです。被請求人を罷免すべき明白な証拠であり、理由です。
■国会を侵奪
第三に、被請求人尹錫悦は非常戒厳を解除する唯一の権限がある国会を侵奪しました。憲法第77条第5項は「国会が在籍議員の過半数の賛成で戒厳の解除を要求したときには大統領はこれを解除しなければならない」となっています。非常戒厳を解除できるのは唯一、国会だけです。そのような国会の権限と権能を強圧によって妨害しようと国会を武装兵力で統制、封鎖しようとしました。憲法第87条、刑法第91条で規定した内乱の罪を犯した明白な国憲紊乱、内乱行為です。国会の秩序についても云々していますが、国会には国会自体の秩序維持システムがあります。国会のガラス窓を壊し、乱入したことは秩序の維持ではなく、抑圧であり、暴力です。国会秩序を紊乱したのは被請求人の尹錫悦本人です。
■布告令は違憲・違法
第四に、被請求人は違憲・違法な布告令を発表しました。戒厳布告令第1項で「国会と地方議会、政党の活動と政治結社、集会、デモなど一切の政治活動を禁じる」としているのは憲法第77条第3項[「非常戒厳が宣布されたときは法律が定めるところによって令状制度・言論・出版、集会・結社の自由、政府や法院の権限に関して特別な措置をとることができる」と定めている]に真っ向から背きます。たとえ、合法的な戒厳であったとしても国会に関してはどのような特別な措置もとることができないようになっているのです。
■国家紊乱
第五に、戒厳軍が中央選挙管理委員会を侵奪したことも、司法府の主要な人物を逮捕・拘禁しようとしたことも、すべて憲法や法律に背くものでした。司法権の独立に真っ向から反しただけでなく憲法の三権分立の精神にも背きます。これは憲法第77条第3項、憲法第114条[選挙管理委員会について定めている]、憲法第105条[法官の任期などについて定めている]、憲法第106条[法官の身分保障について定めている]、憲法機関の独立性の精神に違反し、刑法第91条で「憲法によって設置された国家機関を強圧によって転覆またはその権能行使を不可能にすること」と定義づけた国家紊乱目的の内乱罪に該当します。
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憲法裁でおこなわれた尹錫悦大統領弾劾審判の最終弁論 フェイスブック |
■危険な人物
このほかにも被請求人が非常戒厳後にみせた司法正義破壊行為は国民に大きな失望と衝撃を与えました。被請求人は「12・3内乱」後、法官が発付した逮捕令状を拒否して司法機関の法執行を無秩序状態にしてしまいました。ごく一部の支持者を頼りに国家の混乱を助長し扇動するようなみっともない態度をみせ、不正選挙という妄想にとらわれています。不正選挙という陰謀論はわたしが見るに、戒厳宣布文にもなかった後づけのアリバイに過ぎません。万が一にも彼が職務に復帰すれば、また非常戒厳をおこなうかもしれないという疑念を持つに十分な、危険な人物です。
尊敬する憲法裁判官のみなさま。被請求人尹錫悦の憲法と法律に違反した行為はこの間、2回の準備手続きと本日の第11回弁論に至るまでの厳格な審理のなかで証拠文書や映像、16人の証人の証言によって十分に立証されたと考えます。この際、反省し、自分のことを振り返ってみて国民に真摯に頭を下げ謝って当然です。人間なら良心があるはずです。しかし被請求人は国民にたいする謝罪どころか、警告のための短い戒厳だったとか、何ごとも起こらなかったなどと弁明しています。これによって国民は戒厳宣布当時の衝撃、それ以上の衝撃を受けています。
戒厳が早く終わったのは被請求人の功労でしょうか。死傷者が出ずに済んだのは被請求人の自慢なのでしょうか。戒厳の被害をそれでも減らすことができたのは国会に駆けつけた市民、戒厳軍を防いだ国会議員補佐官、装甲車を食い止めた市民らのおかげです。本人も告白したように明白な不法命令に消極的に抵抗した軍人、戒厳解除のために命がけで塀を乗り越えた国会議員らの合作品です。警告のための戒厳であり、何ごとも起こらなかったのだから、また、戒厳をなさるというおつもりなのか。人間なら、恥を知るべきです。
■過去が現在を助け、死者が生者を救った
大韓民国は軍事独裁と非常戒厳の痛い傷痕を抱えています。わたしたち国民は1980年5月の光州を血で染めた全斗煥を中心とした新軍部の非常戒厳を鮮明に記憶しています。「なぜ刺したんだろう、なぜ撃ったんだろう、トラックに積んでどこへ行ったんだろう」[光州民主化運動後に歌われた民衆歌謡「5月の歌」の一節]。「望月洞のいからした眼」[同じく「五月の歌」の一節で、望月洞は民主化運動犠牲者らが眠る墓地の所在地]で、大韓民国の民主主義を見守っています。この光州虐殺の傷痕と精神が45年後の内乱の夜、国会を守ってくれたのです。ノーベル文学賞受賞作家ハン・ガン(韓江)さんの言葉通り、過去が現在を助け、死者が生者を救ったのです。
民主憲法の守護神である憲法裁判官のみなさま。被請求人は非常戒厳の緊急談話文の中で「国会は犯罪者集団の巣窟になり、自由民主主義体制の転覆をはかっており、国会が自由民主主義体制を崩壊させる怪物になったようだ。大韓民国は今すぐにつぶれてもおかしくない風前の灯火の運命にある。国民の自由と幸福を奪っている破廉恥な従北反国家勢力を一挙に剔抉し、自由憲政秩序を守るために非常戒厳を宣布する」と言いました。被請求人に問いたいと思います。今も2024年12月に大韓民国がすぐにつぶれてもおかしくないほどの風前の灯火の運命にあったと考えているのか。もしかして「ミョン・テギュンの黄金フォーン」[政治ブローカー、ミョン・テギュン氏が使っていた携帯電話のこと。尹錫悦大統領夫妻の国会議員候補公認介入などの疑惑に絡む音声が録音されていると韓国メディアは報じている]による本人だけの危機ではなかったのでしょうか。
■再び非常戒厳?
国会は犯罪者の巣窟なのか。国会は反国家勢力なのか。国会が従北反国家団体というなら総選挙で投票した国民も反国家従北勢力だというのでしょうか。国家予算の編成権は行政府にあり、予算の審議・議決権は国会の権限です。使途を疎明できず国民の血税浪費と目されてきた検察の特殊活動費が削減されたといって戒厳をするなら、科学技術分野におけるR&D予算を大幅に削減した被請求人はだれが懲らしめるべきなのでしょうか。1%にもならない国家予算を削ったといって非常戒厳をするとなると毎年非常戒厳をしなければならないことになり、憲法裁判所で弾劾が棄却されればまた、非常戒厳をするつもりなのでしょうか?
■弾劾の権限と大統領の拒否権
違憲・違法な高官らを弾劾する権限は国会にあります。国会の厳然たる合法的な弾劾の権限について言えば、被請求人も国会の権限に基づいて弾劾され、法的手続きにしたがって今ここで弾劾審判を受けています。被請求人もやはり、憲法と法律に基づいて20余回も拒否権を行使したのではなかったのですか? 金建希特別検察法[大統領夫人を取り巻く疑惑の捜査に専従する検察官を特別に任命する法]、蔡海兵特別検察法[水害の行方不明者を捜索していた海兵隊員の死亡事故をめぐり、上司の過失についての捜査に大統領室が圧力を加えたのではないかとの疑惑解明に特別検察官を任命する法]など、本人や妻の利害が絡む法案もみな、拒否権を行使したのではなかったのですか。国会も大統領も、憲法と法律にしたがってそれぞれが権限を行使したのです。国家機関は憲法と法律の枠内で権限を合法的に行使しなければなりません。自分が気に入らないからといって憲法や法律をまったく無視して反憲法的な内乱を画策していいのでしょうか。気に入らないからといって国民や憲法を殴りつけ、リンチしていいのでしょうか。
被請求人は与野党合意がなされないので拒否権を行使すると言いました。与野党合意は憲法や国会法のどこにも書いてありません。そのような考え方自体、反憲法的です。総選挙にあたり、一票、一議席でも多く得ようと努力するのは、憲法第49条で規定した「国会の意思決定は多数決で行え」という憲法の命令があるからです。与野党合意が法案通過の前提条件というなら、それは民意を否定し歪曲する反憲法的、反法律的言動です。代議民主主義憲法の否定です。何のための総選挙なのでしょうか?
■動かせぬ証言
尊敬する裁判官のみなさま。被請求人は「警告性の戒厳であり、何ごとも起こらなかった」と仮想現実にいる人間のようなことを言っています。本人は逮捕を指示していなかったと言い、洪壮源・前国情院第一次長と郭種根・前陸軍特殊戦司令官の工作だと主張しています。だれよりも被請求人に忠直だった2人が、どんな理由から被請求人を陥れようとしたというのでしょうか。被請求人から直接指示を聞いたというのは2人の証言だけでもないのに、指示を聞いた人間のみんなが工作に加担したというのでしょうか。そんなことは可能でしょうか。
国会の内乱国調特委(内乱容疑真相究明国政調査特別委員会)でノ・ヨンフン防諜司令部捜査室長は「軍事警察の未決収用所という正常な拘禁施設があるのにB1バンカーを確認すること自体が正常なことではなかった」と証言しました。 キム・デウ前防諜司令部捜査団長は「李在明[「共に民主党」代表]、禹元植[国会議長]、韓東勲[前「国民の力」代表]の3人に集中しろとの指示を受けたのか」との質問に「はい」とはっきりと答えました。また、この憲法裁判所が唯一、職権で採択した証人チョ・ソンヒョン首都防衛司令部第一警備団長もやはり、「中に入っていって議員らを引きずり出せとの指示を聞いた」とはっきりと証言しました。被請求人側で「議員」を「要員」とごまかしてしまおうとする小細工は失敗したのです。
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最終陳述をおこなう鄭清来議員 フェイスブック |
■気に入らない人物の根絶狙う?
よしんば野党が従北反国家団体だとして主要人物を逮捕、拘禁しようとしたのなら、政権与党の韓東勲代表はなぜ、逮捕しようとしたのでしょうか? 結局、被請求人は反国家勢力という見せかけをして自分の気に入らない人物を根絶やしにしようとしたのではないのでしょうか。そういう人たちを全員逮捕し、永久執政を夢見たのではないか。「ノ・サンウォン手帳」[尹錫悦大統領による「非常戒厳」をめぐり内乱罪で起訴された元軍情報司令官の占師、ノ・サンウォン氏の手帳。金龍顕前国防相=内乱罪で起訴=と連携し、戒厳令宣布後に拘束・監禁しようとした人物名などが書かれていたと報じられている]とはまた、何なのか? 「寝室に爆発物、化学薬品、緻密な回収(逮捕)計画」というおぞましい内容です。「殺害暗示のノ・サンウォン手帳 文在寅[前大統領]、柳時敏[ジャーナリスト、元国会議員]ら500人射殺 政治家・法曹人・放送人・スポーツ関係者らを狙う」「捕縄で収容所送り……全左派勢力崩壊」――これらはこの件を報じたメディアの見出しです。生涯、サッカー以外に知らない車範根監督がなぜ、ここに記載されたのでしょうか。車監督は「わたしはサッカーを愛し、サッカー以外のことには関心や欲心がない。わたしの名前がどうして手帳に書かれているのか、ただ驚くばかりだ」と語り、「わたしは平和、愛、幸福といった言葉で満たされる老後を過ごしたい」と言っています。
■大きな後遺症
いまはもう、空想にふけった権力者が崩そうとした平和な日常を取り戻さなければなりません。被請求人は何ごとも起こらなかったと強弁していますが、たくさんのことが起き、戒厳の被害はとてつもないものです。国民はまだ、内乱性ストレスで眠られず、ソウル西部地裁乱入[尹錫悦大統領の拘束に反発した支持者が暴徒化して地裁に乱入し、器物を損壊した事件]のようなひどい事態を目撃しました。憲法擁護の最後の砦である憲法裁判所までテロの脅威にさらされています。被請求人が犯した内乱で、国民はお互いを敵とみなし、心理的内戦状態に陥っています。
尊敬する憲法裁判官のみなさま。大韓民国は輸出で食べている国です。対外依存度が高い経済構造上、国家の安定がすなわち経済であり、平和がすなわち経済です。民主主義先進国大韓民国を不安な目で見ている全世界に、わたしたちの民主主義の回復能力を見せてやらなければなりません。一日も早く内乱を克服し、国政を安定させることがその出発点です。戒厳に伴う国政の混乱と不安感による被害はあまりにも大きなものです。1回目の弾劾訴追案が否決された直後の昨年12月9日、韓国株式市場のコスピ(KOSPI)とコスダック(KOSDAQ)は年間最低値を記録しました。戒厳宣布の一言で時価総額140兆ウォンが下落したのです。戒厳後、為替レートは急落し、内需景気も凍りつきました。「何ごとも起こらなかった」という被請求人の言葉とは違い、戒厳の後遺症は大きかったのです。
建物ごとに賃貸問い合わせのビラが張り出され、食堂の主人は「お客さんがいない」と嘆き、廃業を心配しています。
■商工人の泣訴
きょう最終弁論書を作成する、国民といっしょに作成したいのでネットのコメントで上げてほしいとお願いしたところ、ある方が書き込んでくれました。数千人の声のなかの一つです。ある商工人社長の泣訴です。製造卸売の自営業者です。「戒厳のあと、急に注文が減り、資金難で苦しんでいたが、2月を最後にやむを得ず3人の従業員に辞めてもらい、家族4人でなんとかやりくりしています。この1年、苦しいなかでも従業員の給料は赤字を出しながらなんとか埋め合わせていたのに戒厳後はIMF危機[1987年、韓国が国際通貨基金の支援を受けた金融危機]の時より深刻なようです。50年間守ってきた工場は閉じることになりました」。これがいま苦しんでいる国民の声なのです。
■外交にも被害
国益の追求が最終目標の外交も被害は甚大です。米国政府は非常戒厳の発表が事前に通報されていなかったことに当惑と憂慮を表しています。トランプ政権との初期首脳外交のゴールデンタイムを逸しました。2024年12月に予定されていた日本の中谷元防衛相の訪韓、2025年の年初に予定されていた石破茂首相の訪韓が取り消されました。EUやヨーロッパ諸国は韓国の民主主義毀損に憂慮を表明しており、スウェーデン首相の訪韓が取り消され、2025年上半期に予定されていたマクロン仏大統領の訪韓も延期されるなど、国の品格失墜に伴う被害はあまりにも大きいといえます。
■国軍の名誉失墜
尊敬する裁判官のみなさま。非常戒厳で最も大きな被害を負ったのは大韓民国の国軍です。軍部独裁の被害を繰り返さないためにわたしたちの憲法第87条は「軍人は現役を免除された後でなければ国務委員に任命されない」と規定して軍の政治的中立を宣言しています。しかし被請求人の私的な目標達成のために戒厳軍に動員された軍が、自身らが守るべき国民に銃口を向けたという汚名を着せられることになりました。失墜した軍の名誉を回復させてかれらが再び国と国民を守るのだというプライドをもって勤務できるようにしなければなりません。その出発点は軍の存在理由を崩してしまった被請求人にたいして応分の責任を問うことであらねばなりません。
■36年前の悪夢
尊敬する憲法裁判官のみなさま。わたしは12月3日の夜10時50分ごろ、非常戒厳の緊急速報を見て、怖さでぶるぶる震えながら国会後門の塀を乗り越えました。戒厳軍が先に陣取っていて、逮捕・連行されるのではないかと怖かったのです。国会のグランド近くから本庁舎へ一歩一歩踏み出すごとに36年前の1988年9月の夜のことがまるで昨日のことのように思い浮かびました。午前1時、安企部に捕まり[国家保安法違反容疑]、いまもどこだったか分からないソウル乙支路のどこかにあるホテルに引っ張って行かれてタオルで……、タオルで目隠しされたまま下着姿で4時間……、拳で殴られ、足で蹴られ……、拷問の暴行を受けました。生きているのが苦しかった。メディアで伝えられた「ノ・サンウォン手帳」通りのことが行われていたら、多くの人たちが死を免れなかったと思います。
■誇らしい国を傷つけた大統領
尊敬する裁判官のみなさま。大韓民国は世界が驚くほどの発展を遂げてきました。この100年間で王朝国家から民主主義国家に、援助を受けていた国から援助の与える国、文化芸術の強国へと発展してきました。いま、この時間にもコリアンドリームを夢見ながら世界のあちこちの韓国語塾で韓国語を学ぼうという人たちが列をつくっています。政治、経済、外交的にも大韓民国は有数の民主主義先進国となり、軍事的にも世界6位の強大国になりました。白凡・金九先生[独立運動家、上海臨時政府主席などを務めた]が夢見た文化の花開く国になりました。わたしたち国民はこの間、外国のどの国も、北朝鮮もあえて揺さぶることのできない国になったと自負してきました。
そのような誇らしい国で、現職大統領によって国会が戒厳軍に侵奪され、政敵を除去するための親衛クーデターというおぞましいことが起きるとは夢にも思いませんでした。被請求人尹錫悦はいまも非常戒厳が高度の統治行為だといい、反省と自己省察を拒んだまま、戒厳と内乱を正当化する詭弁と饒舌を弄しています。かれを罷免することによって一日も早く大韓民国を正常に戻さなければなりません。
■最後の砦
尊敬する憲法裁判官のみなさま。憲法裁判所は憲法擁護の最後の砦であり、国民主権を守る最後の防波堤です。被請求人の反憲法的内乱行為は民主主義の根幹を揺るがす重大な違憲の試みであり、国民の自由と権利を本質的に侵害する反憲法的挑発でした。被請求人は軍の統帥権者として与えられた強大な権限を乱用して軍と警察を私有化する重大な違憲行為を犯しました。いぜんとして不正選挙陰謀論にとりつかれていて、総選挙の結果によって構成された国会を否定しています。弾劾が棄却されれば国政をどう率いていく、などとでたらめな弁明や食言をこのあとも続けるのかもしれません。
■民主主義の敵は民主主義で、憲法の敵は憲法で
国民は被請求人が盗っ人猛々しくも他人のせいばかりにする言葉遊びをもう信じないでしょう。仮にほんとうのことを言ったとしてもだれが信じますか。被請求人の言葉に騙されてはいけません。信無くば立たず――といいます。信頼を失った大統領は国民の前に再び立つことはできません。民心は海のようなもので、船を浮かべることもひっくり返すこともできます。被請求人から民心は離れました。被請求人の反憲法的内乱行為は主権者である国民に対する明白な背信でした。被請求人の私益と貪欲のための権力乱用と憲政秩序の破壊によって国民の信頼は完全に失われました。国民がこれ以上許さないことはあまりにも当然のことです。被請求人を罷免することは、大統領という最高権力者に憲法を順守する義務があることをいま一度想起させ、憲法の敵から憲法を守ることです。憲法を破壊した行為には例外なく断固として対処するというのが憲法の峻厳な命令です。民主主義の敵は民主主義で払いのけ、憲法の的は憲法で払いのけなければなりません。
■韓国民主主義の底力
大統領の弾劾はけっして軽々しく決めてはなりませんが、憲法で定めた要件が充たされ、憲法秩序を守るための不可避な選択だとしたら必ずなされなければなりません。いま、わたしたちに必要なのは憲法の上に君臨しようとするなんでもできる王ではなく、「絶対権力者も過ちがあれば罰を受ける」という一般常識です。大統領にたいする罷免の決定は私的感情による政治報復や政治的攻撃ではなく、ひたすら憲法と法治主義を回復するための憲法擁護者の決断です。被請求人尹錫悦にたいする罷免決定は大韓民国の民主主義の驚くべき回復力を見せてやると同時に大韓民国憲法が生きていて現実に作動する実質規範であることを示す歴史の記録となるでしょう。
尊敬する裁判官のみなさま。被請求人は以上のような理由により、大韓民国の大統領職を維持する資格がありません。国民のこころのなかの大統領ではありません。わたしたち国民は憲法の敵を憲法によって防ぎました。民主主義の敵も民主主義で守り抜きました。大統領尹錫悦を罷免することによって憲法擁護の意志を見せてやることを望みます。被請求人にたいする罷免で得られる国家的利益は圧倒的に大きなものです。必然は偶然の衣服を着て現れるといいます。非常戒厳が妄想家の偶然の突出行動であったとしたら、内乱の克服は国民が成し遂げた必然です。その必然が大韓民国の民主主義の底力です。
■コリアンドリームの実現を
内乱の克服は国を愛する国民の民主主義にたいする必然的な本能と自己救済策であり、ひとつ一つの努力の結果でした。いまはもう、内乱を克服し、国政を安定させて未来に進まなければなりません。よりよい民主主義、より広い民主主義の広場で「K-民主主義」が咲き乱れ、光の革命で国民のエネルギーを一つにまとめ、ひとり一人が豊かに暮らす国、しばし停滞した外交・安保・国防のしっかりとした国、平和な朝鮮半島、経済と文化芸術が共に発展するコリアンドリームを国民とともに夢見ながら再び前に進みましょう。被請求人の非理性的、反歴史的な非常戒厳は起きてはならなかった非現実的な妄想でしたが、「神がお護りくださる我が国万歳」[国歌「愛国歌」の一節]です。憲法を愛する国民が愛国歌を誇らしく歌えるよう民主主義と憲法擁護のために被請求人尹錫悦を一日も早く迅速に満場一致で罷免してくださるようお願いします。「東海の水が乾き、白頭山が朽ち果てても 神がお護りくださる我が国万歳 無窮花、三千里、華麗な山河 大韓人は大韓を 永遠に保全しよう」[同]。最終弁論の最後を映像で締めくくりたいと思います。ご清聴ありがとうございました。