韓国の文在寅(ムン・ジェイン)新政権はまずは順調なスタートを切りつつあるようだ。文在寅大統領はこの先、どのような政策を進めるのか。とりわけ気になるのは北東アジア情勢に直結するその対北政策、南北関係だ。
文在寅氏は今年1月ソウルで出版された本の中で諸政策についてかなり詳しく語っていた。『大韓民国は問う――まったく新しい国、文在寅は答える』と題した作家・文亨烈氏との対談本である。今回の大統領選に向けた公約の性格を帯びたものだったが、そこでは対北政策の基本哲学といったものについても語っている。目についた部分を抄訳し、その対北政策を占うよすがとしたい。(波佐場 清)
文亨烈 朝鮮半島は休戦状態で、北朝鮮の核問題で常に緊張状態にあります。南北対話や統一に関しどのような構想を描いていますか。南北間に和解と平和の風穴を開けるにはどうしたらいいと考えますか?
■まずは経済分野の統一から
文在寅 いったん、統一の過程を2段階に分けて考えてみることができます。まず、経済分野で統一を達成することです。経済分野の統一は韓国経済を回復させる道であり、韓国経済の新しい突破口にもなります。
<訳注:「統一は経済の分野から」とする考えは、韓国民主化後の盧泰愚政権(1988~93年)以来、歴代政権が掲げてきた「民族共同体統一案」に沿ったものだ。それはヨーロッパ統合構想と重ね合わせて考えると分かりやすい。
ヨーロッパの統合は、
ECSC(欧州石炭鉄鋼共同体/1952年設立)→EEC(欧州経済共同体/58年)、EURATOM(欧州原子力共同体/58年)→EC(欧州共同体/67年)→EU(欧州連合/93年)
という過程を経て進展してきた。まずは経済の統合から入り、いまの連合(EU)段階にまで進んできたわけである。実現の可能性はともかくも、ゆくゆくは政治の統合も、というのがヨーロッパ統合の理念だった。
韓国の統一構想はこれをモデルに、南北でまず経済共同体をつくり、それを社会や文化の共同体にまで広げて一つの共同生活圏にし、実質的な統一状態をつくることを当面の目標としている。そうした過程を制度化し、平和的に管理するための南北連合をつくろうというのがこの構想の核心といえる。
大統領選投票を翌日に控えた5月8日夜、文在寅候補がソウルの光化門広場で最後の訴え
=韓国カトリック大生、姜明錫君写す
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過去、金大中政権(1998~2003年)と盧武鉉政権(2003~08年)は、この構想を下敷きに対北和解協力政策を推進。続く李明博政権(08~13年)と朴槿恵政権(13~17年)は北の核問題解決を前提にした形の「核連携戦略」をとったことで南北関係はいま、断絶状態に陥っている。
文在寅政権は金大中・盧武鉉政権を引き継ぎ、核問題解決と和解協力の「並行戦略」で対北関係を打開し、南北の経済協力を積極的に進めようとしているとみられる>
■「鉄のシルクロード」推進
先ごろ、ロシアが日本に鉄道の連結を提案したが、それを見て胸が塞がるような思いでした。<訳注:例えば2016年10月3日の「産経ニュース」は、日本とロシアの経済協力に関し、ロシア側がシベリア鉄道を延伸し、サハリンから北海道までをつなぐ大陸横断鉄道の建設を求めていることが分かった――と報じた。 http://www.sankei.com/politics/news/161003/plt1610030005-n1.html>
それは韓国の夢だからです。韓国の鉄道が北朝鮮を通ってシベリア鉄道とつながり、シベリア鉄道が中国の鉄道とつながって大陸、さらにその先のヨーロッパにまで行くルート。金大中大統領が言っていた「鉄のシルクロード」を推進してきていたが、李明博政権になって中断してしまった。
朴槿恵大統領も口では言ったが、何もしませんでした。鉄道だけではありません。鉄道を繋ぐことができれば、ガス管をシベリアから北経由で南まで延伸できます。
■モンゴルで太陽光・風力発電
さらに、モンゴルに大規模な太陽光や風力の発電所ができれば、それをアジアのシルクロードから北を経て韓国に持ってくることもできる。無窮無尽の経済領域が生まれることになるのです。そのようなチャンスを有する国は韓国以外にありません。
ところが、日本とロシアが鉄道を繋ぐことになれば、韓国は大陸に出ていく機会と通路を失ってしまうことになる。南北で経済の統一がなされれば、8千万人の内需市場を持つことになり、それだけでも相当に成長潜在力を高めることができます。
そうなると、米国、中国、ドイツ、日本に次ぐくらいの経済大国になるか、場合によっては日本を追い越すだろうという世界の研究機関の展望もあります。このように、経済統一がなされると、次はいつになるかは分からないとはいえ、政治・軍事面の統一の道がおのずと開けると見ています。小さな水滴が岩をも穿つように、ということです。(つづく)
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