夢の中での金大中大統領とのインタビューは続く。
―この緊迫した状況、どうしたらいいのでしょうか。
「具体的な方策の前に、まず北朝鮮が何を考えているのかを知っておく必要がある。なぜ、核実験やロケット発射を繰り返すのか。そこには国内的な理由―、国威発揚とか、5月の第7回労働党大会に向けて金正恩第1書記の求心力を高めるといったことも確かにあるだろう。しかし、それはなにも今回、金第1書記が初めてやっていることではない。核実験もロケット発射も金正日総書記の時代から繰り返している」
■平和協定求め、米国にサイン
「重要なのは、背景にあるもの―一言でいえば、要するに米国に対する脅しと言おうか、一つのサインなのだ。1950年6月に勃発した朝鮮戦争は法的にはまだ終わっていない。休戦状態でしかない。言ってみれば、『一時撃ち方やめ』の状態。だから不安定で、韓国と北朝鮮の間に引かれた休戦ラインを挟んでしょっちゅう小競合いや衝突が起きている。そこで、そんな休戦体制を平和体制に変えよう、いまの休戦協定に代わる平和協定を結ぶ話し合いをしよう、と北朝鮮は米国に求めている」
「これは、北朝鮮の一貫した主張なのだが、今回とくに昨年1月から、平和協定の締結を真正面から掲げて米国に話し合いを迫っていた。それを米国は『核放棄が先決』とする『戦略的忍耐』政策で事実上、無視してきた。北朝鮮にとって米国との平和協定締結は自らの体制の生き残りをはかるうえで欠かせない。核実験とロケット発射は、今の休戦体制がいかに危ういものであるかを米国と国際社会に再認識させることで、米国を交渉に引き込もうとしている面がある」
<朝鮮戦争休戦後、北朝鮮は南北間の平和協定を求めていたが、1970年代に入って「米朝間」を求めるようになった。「朝鮮半島に展開されている武力の統帥権を握るのは米軍と朝鮮人民軍だけだ」とする論理だ。80年代に入って、これに韓国を加えた「3者会談」を提案。以来、「米朝で平和協定、南北で不可侵宣言」という基本路線を維持している。90年代に入ってからは、休戦協定に代わる米朝間の「新しい平和保障システム」づくりを主張、現在の休戦体制がいかに危ういかをアピールしようとしているとみられる「意図的な挑発」も繰り返している>
<北朝鮮側のこうした「平和攻勢」を、韓国側は「在韓米軍を撤退させ、その隙をついて南侵を企てようとしている」と警戒してきた。休戦協定に替えて平和協定が結ばれる、つまり平和が保障されれば、韓国内に外国軍隊が駐屯する理由はなくなる―という論理を北朝鮮は展開してきたからだ>
―核実験やロケット発射は国際ルール違反だ、というのが日米韓に限らず、中国も含めた国際世論です。北朝鮮の主張は、国際社会では通用しません。
■圧力では解決しない
「日米韓は制裁と圧力一辺倒で、これは極めて危険だ。北朝鮮は果たして圧力をかければ降参して核を手放すだろうか。そんな柔な政権なら、とうに崩壊してしまっている。だから、やっかいなのだ。『太陽政策』と逆の『北風路線』は北をますます頑なにさせ、却って核にしがみつかせる結果を招いている。『核も経済も』という北の『並進路線』は要するに、南北の国力格差が大きく広がる中、米韓の軍事圧力に対抗していくうえで一発逆転の核兵器だけに集中した方が、経済的に安上がりになる、という路線だ」
「その点、中国は北の核実験とロケット発射を厳しく非難する一方で、国連制裁をめぐり『制裁そのものが目的でなない』と慎重な姿勢を見せている。追い込むだけでは解決につながらないことがよく分かっているからだ。実際、崩壊などということになれば大混乱で最悪の事態が予想される。中国は朝鮮半島の非核化を求めると同時に、休戦協定を平和協定に転換することも求めている」
<中国の王毅外相は2月17日、訪中のオーストラリアのビショップ外相との共同記者会見で、朝鮮半島の非核化と、休戦協定の平和協定への転換を並行して進める考えを明らかにした。(http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM17H7X_X10C16A2FF1000/)>
―その中国は6者協議の再開を模索していますが、簡単ではなさそうです。米韓は北朝鮮が核放棄に向かうことを再開の前提にしているし、北朝鮮は自ら「核保有国」と宣言し、憲法にまで書き込んでいます。6者協議はその目的を「朝鮮半島の非核化」としており、再開は容易ではなさそうです。
■4者会談も考えるべきだ
「ここ8年間開かれていないとはいえ、枠組みは残っている。これを何とか生かしたい。もし、6者協議がどうしても難しいというなら、南北と米中による4者でもいいではないか。実際、1990年代後半に4者会談は開かれてもいる。2005年の6者協議共同声明(「9・19声明」)や、廬武鉉大統領と金正日総書記が交わした2007年の首脳宣言(「10・4宣言」)でも、そういう趣旨のことが盛り込まれていた」
<4者会談は「(朝鮮半島で)恒久的平和協定を達成する過程を始めるため」(1996年4月の米韓首脳会談共同声明)とする米韓の提案により、97年末から99年夏にかけジュネーブを舞台に6回にわたって開かれたが、北朝鮮側が主張した「在韓米軍撤退」問題などを巡って紛糾し、成果は得られなかった>
<2005年の6者協議「9・19声明」は、「6者は、北東アジア地域の永続的な平和と安定のための共同の努力を約束した」とし、「直接の当事者は、適当な話し合いの場で、朝鮮半島における恒久的な平和体制について協議する」と、「直接の当事者」に絞った協議にも言及している>
<2007年の「10・4宣言」は、「南と北は現在の休戦体制を終わらせ、恒久的平和体制を模索していかなければならないということで認識を同じくし、直接関係のある3者または4者の首脳が朝鮮半島地域で会い、終戦を宣言する問題を推進するために協力していくことにした」とした。ここで「3者」とは南北と米国、「4者」はその3者に中国を加えたフォーラムを意味していたとみられている>
―朴槿恵大統領は今、制裁と圧力だけを考えているようです。この間、中国への配慮から慎重だった在韓米軍への高高度迎撃ミサイルシステム「THAAD(サード)」配備についても米国と協議を始めています。3月7日から予定している米韓合同軍事演習も「最先端、最大規模で行う」と宣言しています。
■新冷戦への引き金
「平和とは全く逆方向に進もうとしている。本当に心配だ。とくに、米国のアジア太平洋リバランス戦略に組み込まれる在韓米軍へのTHAAD配備は、朝鮮半島を中心とした東北アジア地域を米中対立、新冷戦の最前線に変えてしまう。その配備は、この地域の軍事バランスを崩すことになり、中国はミサイル配備の増強で対抗してくるのは間違いない。韓国が東北アジア新冷戦の引き金を引くことがあってはならない」
「朴槿恵大統領は本来、オバマ大統領を説得し、平和の方向に導いていかなければならないのに、本当にもどかしい。地政学的に言っても、また現在の国際的な地位から見ても、東北アジアにおける韓国の存在感は十分に大きくなっているのだ」
「私が大統領の時代、当時のクリントン米大統領に米朝の対話を強く働きかけた。結果、オルブライト国務長官の訪朝が実現し、いよいよクリントン大統領の訪朝というところまでいった。結局、クリントン大統領の任期切れが迫り、中東和平の動きが急を告げたことで実現には至らなかったが、あのとき、クリントン大統領の訪朝が実現していたら、朝鮮半島の歴史は変わっていた。北朝鮮が核兵器を持ってしまっているなど、当時と状況は違ってきている面もあるとはいえ、その気になれば朴大統領は大きな役割を果たせる」
■早急に4者会談を開くべきだ
「繰り返しになるが、北朝鮮が求めているのは米国との平和協定だ。韓国も加わり、そこに向けて4者会談のようなものを早急に開いていくべきだ。北朝鮮の在韓米軍撤退要求も言葉通りに受け取る必要はない。実際、2000年6月の南北首脳会談のさい、金正日総書記は私に『米軍は引き続き朝鮮半島にいた方がいい。北東アジアの力関係からいって、統一後も残るべきだ』とはっきり言った。その点、金正恩第1書記も十分にわかっていると思う」
<在韓米軍をめぐる南北首脳会談のやりとりは『金大中自伝Ⅱ 歴史を信じて 平和統一への道』(波佐場清、康宗憲訳/岩波書店)240ページ参照。
http://www.amazon.co.jp/%E9%87%91%E5%A4%A7%E4%B8%AD%E8%87%AA%E4%BC%9D%EF%BC%88II%EF%BC%89%E6%AD%B4%E5%8F%B2%E3%82%92%E4%BF%A1%E3%81%98%E3%81%A6%E2%80%95%E2%80%95%E5%B9%B3%E5%92%8C%E7%B5%B1%E4%B8%80%E3%81%B8%E3%81%AE%E9%81%93-%E9%87%91-%E5%A4%A7%E4%B8%AD/dp/4000225820/ref=sr_1_2?s=books&ie=UTF8&qid=1455939334&sr=1-2
この問題に関しては、金大中政権下で「太陽政策」を推進した林東源元統一相の回顧録『南北首脳会談への道』(波佐場清訳/岩波書店)に詳しい。
http://www.amazon.co.jp/%E5%8D%97%E5%8C%97%E9%A6%96%E8%84%B3%E4%BC%9A%E8%AB%87%E3%81%B8%E3%81%AE%E9%81%93%E2%80%95%E6%9E%97%E6%9D%B1%E6%BA%90%E5%9B%9E%E9%A1%A7%E9%8C%B2-%E6%9E%97-%E6%9D%B1%E6%BA%90/dp/400024163X/ref=sr_1_3?s=books&ie=UTF8&qid=1455939334&sr=1-3>
―クリントン大統領の訪朝が実現しなかったのは惜しまれます。とはいえ、目の前の現実を見るとき、北朝鮮は自ら「核保有国」を名乗って核実験を繰り返し、今回、「水素爆弾」とまで言っています。北朝鮮に核を手放させるのは簡単ではなさそうです。
■北の生存を認めたうえで…
「その通りだと思う。その点、米国のキッシンジャー元国務長官の考え方が参考になると思う。北朝鮮が核を持つのは体制の崩壊を恐れているからなのだ。いまの体制の生存の問題を含まない枠組みを用意し、そこで解決していくしかない」
<元外務省国際情報局長の孫崎享氏はその著書『これから世界はどうなるか----米国衰退と日本』(ちくま新書)などで、キッシンジャー氏の次のような指摘を紹介している。『核兵器と外交政策』(田中武克・桃井真訳、日本外政学会
絶版)からの引用を、そのまま孫引きすると、次のような内容である。
▽核兵器を有する国はそれを用いずして全面降伏を受け入れることはないであろう。
▽一方でその生存が直接脅かされていると信ずるとき以外は、戦争の危険をおかす国もないとみられる。
▽無条件降伏を求めないことを明らかにし、どんな紛争も国家の生存の問題を含まない枠をつくることが米国外交の仕事である>
―日本はどんな役割を果たすべきでしょうか。安倍晋三首相は「日米韓の協力」を強調するだけで、独自の策がよく見えてきません。
「安倍政権は拉致・核・ミサイル問題の包括的な解決、と言いながらその実、拉致問題だけを突出させてきた。拉致問題は重要な人権問題であることは言うまでもない。しかし、いまのやり方を見ていると本気で解決しようとしているようには思えない。核・ミサイルの問題も、ただ米国に追随しているだけだ」
「日朝の国交正常化は東北アジア地域の平和に欠かせない。それは日本の過去を清算する問題でもある。拉致問題をめぐる日朝の交渉においても日本はそのことをもっと前面に打ち出していくべきだ。そうすれば、北朝鮮も前向きになり、拉致問題解決の展望も開けてくるというものだ。安倍首相の国会での施政方針演説も、第2次内閣になってからは一度も過去清算や国交正常化に触れていない。前任の野田・民主党政権では毎回、安倍政権でも第1次内閣のときは、それでも言及だけはしていたのに…」
―具体的にどうすべきでしょうか…
と、聞こうとしたところで、目が覚め、夢も途絶えてしまった。残念だが、どうしようもない。この続きは、金大中大統領がまた夢に現れるまで待つしかない…