それを占ううえで、韓国の慰安婦合意検証チームが出した報告書を読み直してみた。そこには韓国側の論理と思いが綿々と綴られており、日本のメディアで一般に報じられる日本側の受け止めとのギャップを改めて感じてしまう。
結論を急ぐ前に、まずは、その報告書の全訳(仮訳)をここに紹介したい。
テキストには、韓国外交省HP上に掲載された2017年12月27日付の「韓日・日本軍慰安婦被害者問題合意検討結果報告書」(http://www.mofa.go.kr/upload/cntnts/www/result_report.pdf)を使い、原文にできるだけ忠実な翻訳を心掛けた。 <波佐場 清>
「慰安婦合意」の検討結果を発表する呉泰奎TF委員長=韓国外交省HPより |
韓日・日本軍慰安婦被害者問題合意(2015年12月28日)検討結果報告書
2017年12月27日
韓日・日本軍慰安婦被害者問題合意検討タスクフォースⅠ.「韓日・日本軍慰安婦被害者問題合意検討タスクフォース」の発足
2015年12月28日、韓国と日本の外相は共同記者会見で日本軍慰安婦被害者問題(以下「慰安婦問題」)に関する両国間の合意内容(以下「慰安婦合意」)を発表した。これによって、韓日両国間の重要な外交懸案であったばかりでなく、国際社会が注目してきた慰安婦問題が一段落したかに見えた。
しかし、この合意の直後、批判の世論が起き始めた。時間が経つにつれ、国民の多数が反対するところとなり、被害者及び関連団体をはじめ市民社会の反発が目立つようになってきた。とくに、朴槿恵大統領弾劾後の2017年の第19代大統領選挙では与野党を問わず主要政党の候補らが合意の無効化または再交渉を公約に掲げた。
2017年5月10日、文在寅政権が誕生した。外交省は7月31日、外相直属の「韓日・日本軍慰安婦被害者問題合意検討タスクフォース」(以下「慰安婦TF」)を設置して慰安婦合意の経緯と内容を検討・評価することになった。慰安婦TFには委員長はじめ韓日関係、国際政治、国際法、人権など、様々な分野の委員9人が参加した。
<慰安婦TF委員名簿>
委員長
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呉泰奎
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元寛勲クラブ総務(元ハンギョレ新聞論説委員室長)
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副委員長
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宣美羅
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韓国人権財団理事長
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趙世暎
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東西大学特任教授
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民間委員
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金恩美
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梨花女子大学国際大学院教授
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孫洌
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延世大学国際学大学院教授
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梁起豪
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聖公会大学日本語日本学科教授
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外交省委員
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ペク・チア
(백지아)
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国立外交院外交安保研究所長
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ユ・キジュン
(유기준)
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国際法律局審議官
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ファン・スンヒョン(황승현)
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国立外交院教授
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慰安婦合意後、市民社会、政界、メディア界、学界から、被害者の参加、裏合意、「最終的・不可逆的な解決」といったことと関連して様々な疑惑や批判が提起されてきた。慰安婦TFはこのような疑問と関心にこたえるよう努力した。
慰安婦TFは2014年4月16日の慰安婦問題関連第1回韓日局長級協議から、2015年12月28日の合意発表までを検討期間とした。また、事案をより正確に理解するために検討期間前後の経過と国内外の動向も調べてみた。
TFは都合20余回にわたって会議と集中討論をおこなった。TFは外交省が提供した交渉経緯に関する資料を優先的に検討した後、これを土台に、必要な文書を外交省に要請して閲覧した。外交省が作成した文書を主に検討し、外交省が受け取ったり、保管したりしていた青瓦台と国家情報院の資料も見た。文書と資料だけでは十分把握できなかった部分に関しては交渉の主要関係者と面談して意見をきいた。
慰安婦TFは次のような基準で経緯を把握し、内容を評価した。
1.まず、「被害者中心のアプローチ」だ。慰安婦問題の解決は本質的に「加害者対被害者」という構図にあって被害女性の尊厳と名誉を回復し、傷を癒すところにある。被害救済の過程で被害者が参加することが何よりも重要で、政府は被害者の立場と意思を集約して外交交渉に臨む責務がある。
2.戦時性暴力の慰安婦問題は、反人道的な不法行為であり、普遍的な人権の問題だ。国際社会は戦時性暴力の問題に関する持続的で体系的な解決努力をし、被害救済のための国際規範を発展させてきた。したがって、慰安婦問題に関しては韓日2国間だけではなく、国際的な次元も同時に考慮されるべきだ。
3.過去とは違い、今日の外交は政府官僚の手に全的に委ねられるものではなく、国民と共になされなければならない。ましてや慰安婦問題のように国民の関心が高い事案は、国民と共に呼吸を合わせ、民主的な過程と手続きを経ることで正しく解決できる。
4.慰安婦問題は韓日関係だけでなく、韓国外交全般に大きな影響を及ぼす事案だ。したがって、関係省庁間、交渉関係者間の有機的な協力システムと緊密な意思疎通を通して全般的な対外政策との均衡がとれた交渉戦略を準備することが重要だ。
慰安婦TFはこの報告書で、慰安婦合意がなされた経緯を調べ、(1)合意内容(2)合意の構図(3)被害者中心の解決(4)政策決定の過程及びシステム――に分けて評価した。
慰安婦TFは慰安婦合意の経緯と内容に関する検討及び評価に任務が限定されたため、慰安婦合意に関する今後の処理方向については扱わなかった。
<慰安婦TF会議開催日誌>
全体会議(計12回)
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補足会議(計10回)
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TF発足と第1回会議
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7月31日
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―
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―
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第2回会議
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8月25日
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―
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―
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第3回会議
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9月1日
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3-1回会議
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9月7日
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第4回会議
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9月15日
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4-1回会議
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9月22日
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第5回会議
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9月29日
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―
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―
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第6回会議
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10月13日
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6-1回会議
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10月17日
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第7回会議
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10月27日
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7-1回会議
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11月6日
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第8回会議
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11月10日
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8-1回会議
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11月14日
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第9回会議
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11月24日
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9-1回会議
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12月1日
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9-2回会議
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12月2日
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9-3回会議
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12月6日
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第10回会議
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12月8日
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10―1回会議
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12月15日
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10-2回会議
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12月18日
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第11回会議
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12月22日
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―
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―
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第12回会議
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12月26日
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―
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―
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※12月1日から12月16日まで集中討論
Ⅱ.慰安婦合意の経緯
1.局長級協議までの段階(~2014年4月)1991年8月、日本軍慰安婦被害者として初めてなされた金学順さんの公開証言は韓日両国だけでなく、国際社会に向けて本格的に慰安婦問題を公論化するきっかけとなった。
93年3月、金泳三大統領は慰安婦問題に関して日本に金銭的な補償を求めず、韓国政府が被害者を直接支援すると明らかにした。その代わりに日本政府に対し、慰安婦問題の真相を調査するよう求めた。[注1]
[注1]1993年3月、韓国外務省は、政府独自の救護対策を準備し、日本側に対して誠意ある真相調査を求めると発表した。同年6月、「日帝下の日本軍慰安婦被害者に対する生活安定支援法」が制定されて被害者1人当たり500万ウォンの生活保護基本金が支給された。また、生活保護法や医療保護法に基づき、生活支援金の支給(月15万ウォン)や医療面の支援もなされるところとなった。98年4月、金大中政権は被害者に対する生活保護基本金を4300万ウォンに増やすなど、被害者支援を強化した。
日本政府は93年8月、慰安所の設置や管理に日本軍が関与し、日本軍慰安婦の募集や移送が総じて本人の意思に反して行われたことを認める河野官房長官談話を発表した。これを契機として韓国政府は同じ日に慰安婦問題を韓日両国間の外交交渉の対象にしないとの方針を明らかにした。
日本政府は95年7月、「女性のためのアジア平和国民基金」(以下「アジア女性基金」)を設立して慰安婦被害者に対し、日本の総理名義のおわびの手紙とともに人道的な措置として金銭を支給した。[注2]
[注2]アジア女性基金から金銭を受け取った韓国人被害者は公式には7人と把握されているが、2014年6月、日本政府が発表した河野談話検討報告書ではアジア女性基金が韓国人被害者61人に1人当たり200万円の償い金と医療福祉支援金300万円を支給したと記述している。
日本政府は、1965年の「大韓民国と日本国間の財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する協定」(以下「請求権協定」)で、慰安婦問題はすでに解決済みで法的責任はない、という立場をとっている。一方、韓国政府は、反人道的不法行為の慰安婦問題は両国間の経済的、民事的債権・債務関係を扱った請求権協定では解決されない事案だという立場だ。[注3]
[注3]2005年8月26日、韓国総理室傘下の「韓日会談文書公開後続対策関連民間共同委員会」は「日本軍『慰安婦』問題など、日本政府・軍といった国家権力が関与した反人道的不法行為については、請求権協定によって解決したとみることはできず、日本政府に法的責任が残っている」と発表した。
韓日両国の立場が平行線をたどるなか、2011年8月、韓国の憲法裁判所は慰安婦問題に関する違憲の決定を下した。憲法裁判所は、請求権協定で慰安婦被害者の日本に対する賠償請求権が消滅したかに関して、韓日両国間に解釈上の紛争があり、韓国政府がこれを請求権協定の紛争解決手続き[注4]に基づいて解決していないのは違憲だと決定した。これに伴い、韓国政府は2011年の9月と11月の2回にわたって請求権協定第3条第1項に基づく両国間協議を日本に要請した。しかし、日本は応じなかった。
[注4]請求権協定によると、協定の解釈及び実施に関する両国間の紛争は、まず外交上の経路を通じて解決するものとし(第3条第1項)、外交上の経路で解決できなかった紛争は仲裁によって解決(第3条第2、3項)するよう規定している。
2011年12月、韓日首脳会談で李明博大統領は慰安婦問題の解決へ、日本政府の決断を求めた。日本側は2012年3月、「佐々江案」として知られる人道次元の解決構想[注5]を非公式に提案したが、韓国政府は国家責任を認める必要があるという理由で拒否した。2012年後半、韓日両国政府は水面下で慰安婦問題に関する協議を推進したりもしたが、成果は得られなかった。
[注5]2012年3月、日本外務省の佐々江賢一郎事務次官が提示した構想で、①日本の総理の謝罪表明②政府予算による医療費支援など人道措置実施③駐韓日本大使による被害者訪問――という内容が盛られていた。
2013年2月に発足した朴槿恵政権は日本を説得して誠意ある措置を引き出す、という方針を立て、日本側に慰安婦問題を話し合う実務協議の開催を持続的に要求した。しかし、慰安婦問題を含む歴史認識をめぐっての両国首脳の見解の違いからこれといった進展はなかった。
2.局長級協議による解決への努力(2014年4月~2015年2月)
2014年3月24~25日、オランダのハーグで核セキュリティ・サミットが開かれた。米国は韓米日3国協力の次元から韓日関係改善に努力し、3月25日、韓米日3国首脳会談が別途、開かれた。この過程で韓日両国は慰安婦問題を扱う局長級協議を始めることに合意した。
慰安婦問題と関連した韓日局長級協議は韓国外交省東北アジア局長と日本外務省アジア大洋州局長の間で2014年4月16日から2015年12月28日の合意発表前日まで、計12回にわたって開かれ、その間、非公開協議もあった。
<慰安婦問題関連韓日局長級協議の開催日時・場所>
日時
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区分
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場所
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日時
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区分
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場所
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2014年4月16日
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第1回協議
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ソウル
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3月16日
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第7回協議
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ソウル
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5月15日
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第2回協議
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東京
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6月11日
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第8回協議
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東京
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7月23日
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第3回協議
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ソウル
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9月18日
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第9回協議
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東京
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9月19日
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第4回協議
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東京
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11月11日
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第10回協議
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ソウル
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11月27日
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第5回協議
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ソウル
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12月15日
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第11回協議
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東京
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2015年1月19日
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第6回協議
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東京
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12月27日
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第12回協議
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ソウル
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局長級協議が始まった後も双方、基本スタンスだけを繰り返し、なかなか交渉が進まなかった。そこで、交渉代表のレベルを上げて直接首脳と意思疎通のできる高位級の非公開協議が必要だという意見が双方から出始めた。
3.高位級協議による合意(2015年2月~12月)
(1)高位級協議開始韓国政府は局長級協議の膠着状態を解くために2014年末、高位級協議を並行して推進する方針を決めた。この時点から話し合いの中心は高位級の非公開協議に移ることとなった。日本側は交渉代表に国家安全保障局長(訳注:谷内正太郎氏)を立てたのに伴い、韓国側は大統領の指示によって李丙琪・国家情報院長が代表となった。[注6]
[注6] 李丙琪氏は最初から最後まで高位級協議の代表を務めた。第1回協議の時は国情院長だったが、第2回協議直前の2015年2月、大統領秘書室長となった。
(2)高位級協議による暫定合意
第1回高位級協議は2015年2月に始まり、同年12月28日の合意発表直前まで8回にわたる協議があった。双方は随時、高位級代表間の電話協議と実務級レベルの協議も並行しておこなった。主務省庁の外交省は高位級協議に直接加わることができず、高位級協議の結果が青瓦台から伝えられた後で、それを検討し、意見を青瓦台に伝達した。
韓国側は、第1回高位級協議に先立って2015年1月に開かれた第6回局長級協議で、中心となる要求事項として、「道義的」などといった修飾語のない日本政府の責任認定をはじめ、これまでよりは進んだ内容の公式謝罪と謝罪の不可逆性の担保、日本の政府予算を使った措置の実施を提示した。
日本側は、第1回高位級協議で、日本側が取る措置と共に最終的・不可逆的な解決の確認、在韓日本大使館前の少女像問題の解決、国際社会での非難・批判の自制など、韓国側が実施する措置を提示した。日本側はこれを公開部分と非公開部分に分けて合意に盛り込むことを希望した。
双方は高位級協議の開始から約2カ月経った2015年4月11日の第4回高位級協議で大部分の争点について暫定合意に達した。合意内容には、日本政府の責任問題、謝罪、金銭的措置という3つの中心事項はもとより、最終的・不可逆的な解決、少女像問題、国際社会での相互の非難・批判自制といった項目が含まれていた。また、関連団体の説得、第三国における慰安婦関連の像や碑の設置、「性奴隷」という用語に関したことなど、非公開とした内容も含まれていた。
(3)高位級協議の膠着と最終合意
2015年4月の暫定合意内容について両国首脳の追認を受ける過程で、日本側は、非公開部分の第三国における慰安婦関連の像や碑の設置と関連して、そうした動きを韓国政府は支持しないとする内容を追加することを希望した。韓国側はそうしたことは、すでに妥結した内容の本質にかかわる修正になるので受け入れられないとした。
そんな中で2015年6月末、いわゆる「軍艦島」をはじめとする日本の近代産業施設のユネスコ世界遺産登録をめぐって両国政府間の対立が大きくなり、慰安婦問題に関する協議もそれ以上進展しなかった。
2015年11月1日、ソウルで開かれた韓日中3国首脳会議は、中断していた高位級協議再開のきっかけとなった。翌2日の韓日首脳会談で両首脳は国交正常化50周年という点を考慮し、できるだけ早いうちに慰安婦問題を妥結させることで意見の一致をみた。朴槿恵大統領は年内妥結に強い意欲を示し、2015年12月23日、第8回高位級協議で最終妥結した。
韓日外相は2015年12月28日、ソウルで開いた会談で合意内容を確認、続いて開いた共同記者会見で、それを発表した。同じ日、両国首脳は電話で合意内容を再度、確認した。そして大統領は慰安婦問題と関連した対国民メッセージを発表した。
最終合意の内容は第3国における慰安婦関連の像や碑の設置と、少女像に関する部分で一部修正がなされたほかは暫定合意の内容と同じだった。
Ⅲ.慰安婦合意の評価
次に、合意内容、合意の構図、被害者中心の解決、政策決定過程及び体系に分けて評価した。
1.合意内容
(1)公開部分
ア)日本政府の責任
(韓日外相共同記者会見での日本側発表内容)
❏慰安婦問題は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、かかる観点から、日本政府は責任を痛感している。
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責任部分で日本政府の責任を修飾語抜きで明示したのは、責任に関する言及がなかった河野談話や、「責任」の前に「道義的」という語が付いていたアジア女性基金当時の日本の総理の手紙と比べて進展があったとみることができる。また、「日本政府として責任を痛感」するとしたのに加え、総理の謝罪と反省の気持ちの表明、そして日本の政府予算拠出を前提とした財団の設立が合意内容に含まれたことは日本が法的責任を事実上認めたものと解釈できる側面がある。
しかし、日本政府は請求権協定で慰安婦問題はすでに解決済みで、法的責任は存在しないという立場を堅持している。日本側は交渉の全過程を通じ、そして交渉妥結直後の首脳間の電話会談に至るまで、一貫してこのような立場を繰り返した。
韓国政府は、日本がその法的立場を固守していて法的責任を認めさせるのは難しいとみて、日本政府が法的責任を事実上認めたものと解釈できるような現実的な方案を推進した。韓国側は「消耗的な法理論争を繰り広げるよりは、被害者を中心に考え、被害者が納得できる内容を引き出せるような工夫をするのが望ましい」という立場で交渉を進めた。
法的責任の認定は、被害者側の中心要求事項の一つだった。外交省も内部検討で、この問題は国内を説得するうえで中心となるものであり、単に「日本政府の責任」とした場合、国内説得が難航すると認識していた。韓日双方とも、そうした点を予想し、「発表内容に関する記者質問に対する応答要領」で、「合意文における『責任』の意味についての質問には『日本軍慰安婦被害者問題は当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、かかる観点から、日本政府は責任を痛感している』という表現そのままであり、それ以上でも以下でもない」と答弁することで調整をおこなった。[注7]
[注7]「発表内容に関する記者質問に対する応答要領」には、上記内容にも下記のような内容が入っていた。
(質問)今回の合意に伴って実施しようとしている具体的な事業はあるのか。また、その事業に伴う予算規模はどの程度と見積もっているのか?
(答え)韓国政府が日本軍慰安婦被害者に対する支援を目的に財団を設立し、そこに日本の政府予算で資金を一括拠出し、韓日両国政府が協力してすべての日本軍慰安婦被害者の名誉と尊厳の回復、心の傷を癒すための事業を実施することとする。具体的には、▽すべての日本軍慰安婦被害者の名誉と尊厳の回復に寄与する心の傷を癒すための措置▽医療サービスの提供(医薬品の支給を含む)▽健康管理及び療養、看病支援▽上記財団の目的に照らしてその他の適切な措置――を考えているが、事業はこの先、韓日両国政府間で合意した内容の範囲内で実施する。日本政府が拠出する予算規模についても今後調整していく予定だが、ざっと〓円程度と想定している。
韓国側は協議で、それまでの日本の「道義的な責任痛感」より進展した「責任痛感」という表現を引き出した。しかし、「法的」責任とか、責任の「認定」という言葉は引き出せなかった。韓国側はこれを補完するために被害者訪問など、被害者の心をつかめる措置を日本側に要求したが、合意に盛り込むことはできなかった。
イ)日本政府の謝罪
(韓日外相共同記者会見での日本側発表内容)
❏安倍内閣総理大臣は、日本国の内閣総理大臣として改めて、慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し、心からおわびと反省の気持ちを表明する。
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安倍総理は内閣総理大臣の資格で謝罪と反省を表明した。過去、アジア女性基金当時、被害者に伝達された日本の総理の手紙にも「おわびと反省の気持ち」という表現は入っていたが、慰安婦合意ではもう少し公式的な形で、このような意思表明したという点で、これまでよりは良くなったと見ることができる。
被害者及び関連団体は日本政府の「後戻りできない」謝罪を求めてきており、韓国政府も交渉の過程で、不可逆的で公式性の高い内閣決定(閣議決定)形態の謝罪を要求した。しかし、そこには至らなかった。また、その形式は、被害者に謝罪と反省の気持ちを直接的に伝えるものではなかった。内容も、アジア女性基金の総理の手紙の中から「道義的な」という単語だけを抜き、同じ表現と語順をそのまま繰り返した。
ウ)日本政府の金銭的措置
(韓日外相共同記者会見での日本側発表内容)
❏日本政府は、これまでも本問題に真摯に取り組んできたところ、その経験に立って、今般、日本政府の予算により、全ての元慰安婦の方々の心の傷を癒やす措置を講じる。具体的には、韓国政府が、元慰安婦の方々の支援を目的とした財団を設立し、これに日本政府の予算で資金を一括で拠出し、日韓両政府が協力し、全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復、心の傷の癒やしのための事業を行うこととする。
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金銭的措置の部分では、アジア女性基金と違い、日本政府が全額、予算から拠出した資金で韓国内に財団が設けられた。[注8] そして、合意当時生存していた被害者47人のうちの36人と、死亡した被害者199人の遺家族68人がこの財団からお金(生存者1億ウォン、死亡者2千万ウォン)を受け取るか、受け取る意思を示すかした(12月27日現在)。
[注8]高位級協議で合意した「財団設立に関する措置内容」には下記のようなものが含まれている。
―すべての日本軍慰安婦被害者の名誉と尊厳の回復及び心の傷を癒す目的で、韓国内の適切な財団に対して日本政府はその予算によって資金を一括拠出し、事業の財源とする。(※日本政府の予算による拠出は1回に限る)
―同財団の活動は以下のようなものとする。▽目的:すべての日本軍慰安婦被害者の名誉と尊厳の回復及び心の傷の癒し▽対象:すべての日本軍慰安婦被害者▽事業:①すべての日本軍慰安婦被害者の名誉と尊厳の回復に寄与する心の傷の癒しのための措置、医療サービスの提供(医薬品の支給を含む)②健康管理及び療養看病支援③上記財団の目的に照らして適切なその他の措置▽実施体制:財団は両国政府間で合意された内容の範囲内で事業を実施する。財団は両国政府に対して事業の実施について定期的に通報するものとし、必要時、両国政府間で協議する。
―財団設立の方法:韓国政府は公益法人の設立手続きに従って政府登録公益財団の形態を推進する。
―財団設立及び日本政府の予算拠出手続きは以下のように推進:①韓国内に財団設立準備委員会を発足させる②両国政府間で、財団の事業内容及び実施方式等を含む口上書を交換③準備委員会と韓国政府の間で、財団事業など権限委任のための書簡を交換④準備委員会と日本政府の間で、資金拠出のための書簡を交換⑤日本政府の財団に対する資金拠出
慰安婦問題は請求権協定で解決されており、法的責任はないとする日本を相手に、日本政府の予算だけを財源として個人に金銭が支給されるようなことはこれまでなかった。[注9]
[注9]高位級協議で合意した「財団設立に関する論議記録」には次のような内容がある。
―現金支給と関連して、韓国側代表から、使用先を問わない現金を日本軍慰安婦被害者に配ることは考えていないが、本当に必要な場合にはその使用先によっては現金を支給するケースを排除しないことを望むという意味の発言があったことを勘案、日本側代表はそのことを前提として「現金の支給は含まない」とする表現の削除に同意した。
―「財団は両国政府に対して事業の実施について定期的に通報し、必要時、両国政府間で協議する」という文案について日本側代表から、この文案に同意するには日本政府の意図に反して財団の事業が実施されないことを確認するよう望むとの言及があった点について、韓国側代表からそのようにする、との趣旨の応答があった。
しかし、日本側は合意直後から、財団に拠出する資金の性格は法的責任による賠償ではないとしている。一部被害者と関連団体も賠償次元のお金ではないので受け取ることはできないといっている。このように、被害者の立場から見て責任問題が完全に解決されない限り、被害者がお金を受け取ったとしても、慰安婦問題が根本から解決したことにはならない。
日本政府が出す資金が10億円と決まったのは客観的な算定基準によるものではなかった。韓日外交当局の交渉過程で韓国政府が金額に関して被害者の意見を集約したという記録は見ることができなかった。
また、韓国で設立された財団から被害者と遺家族にお金を渡す過程で、受け取る人と受け取らない人が出た。これによって、慰安婦問題は韓日間の対立から韓国内部の対立へと構図が変わった側面がある。
エ)最終的かつ不可逆的な解決
(韓日外相共同記者会見での日本側発表内容)
❏日本政府は上記を表明するとともに、以上に申し上げた措置(外相会談時は「上記(2)の措置」と表現)[注10]を着実に実施するとの前提で、今回の発表により、この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。
(韓日外相共同記者会見での韓国側発表内容)
❏韓国政府は、日本政府の表明と今回の発表に至るまでの取組を評価し、日本政府が先に表明した措置(外相会談時は「上記1.(2)の措置」と表現)を着実に実施するとの前提で、今回の発表により、日本政府と共に、この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。韓国政府は、日本政府の実施する措置に協力する。
※下線は慰安婦TFで追加
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[注10]双方が高位級協議で合意した内容は「日本政府は上記を表明するとともに、上記(2)の措置を着実に実施するとの前提で」となっていたが、日本側は共同記者会見で「以上に申し上げた措置を着実に実施するとの前提で」と表現した。韓国側は事前に合意した内容である「日本政府が上記1.(2)の措置を着実に実施するとの前提で」を、共同記者会見では「日本政府が先に表明した措置を着実に実施するとの前提で」と発表した。
最終的・不可逆的な解決という表現が合意に入った点については、合意発表後、韓国内で論難が大きい。
「不可逆的」という表現が入った経緯をみると、2015年1月の第6回局長級協議で韓国側が最初にこの用語を使った。韓国側はこれまで以上に進展した日本の総理の公式謝罪がなければならないとし、不可逆性を担保するために閣議決定を経た総理の謝罪表明を求めた。
韓国側は日本の謝罪が公式性を持たなければならないとする被害者団体の意見を参考に、このような要求をした。被害者団体は、日本はその間、謝罪した後で覆す事例が頻りだったとして、日本が謝罪する場合、「後戻りできない謝罪」にならなければならないという点を強調してきた。2014年4月、被害者団体は「日本軍慰安婦問題解決のための韓国市民社会の要求書」の中で「犯罪事実と国家責任に関して覆すことができない明確な方式の公式認定と謝罪及び被害者に対する法的賠償」を主張していた。
日本側は局長級協議の初期には、慰安婦問題が「最終的」に解決されなければならない、とだけ言っていたが、韓国側が第6回局長級協議で謝罪の不可逆性の必要性に言及した直後の第1回高位級協議から「最終的」のほかに「不可逆的」な解決も併せて要求してきた。
2015年4月の第4回高位級協議では、このような日本側の要求を反映した暫定合意がなされた。韓国側は「謝罪」の不可逆性を強調したのだが、当初の趣旨とは異なり、合意では「解決」の不可逆性を意味するものへと脈絡が変わった。
外交省は暫定合意直後、「不可逆的」という表現が含まれれば、国内で反発が予想されるので削除する必要がある、との検討意見を青瓦台に伝達した。しかし、青瓦台は「不可逆的」は責任の痛感・謝罪を表明した日本側にも効果が及ぶとの理由で受け入れなかった。
「最終的かつ不可逆的な解決」という表現が入った文章の前に「日本政府が財団関連の措置を着実に実施するとの前提で」という表現を入れようと最初に提案したのは韓国側だった。韓国側は、合意発表の時点では日本政府の予算拠出がまだなされていないと見込まれるため、その履行を確実に担保するためにこのような表現を提案した。
この一節が「最終的で不可逆的な解決」の前提に関する論争を生んだ。日本政府が予算を拠出するだけで慰安婦問題は最終的かつ不可逆的に解決すると解釈される余地を残したからだ。しかし、韓国側は協議の過程で、韓国側の意図が確実に反映される表現を盛り込もうとする積極的な努力をしなかった。
結局、双方は慰安婦問題の「解決」については、「最終的・不可逆的」と明確に表現しながら、「法的責任」の認定は解釈上できるだけ、という線で合意した。それにもかかわらず、韓国政府は日本側の希望に沿い、最終合意に当たって日本政府の表明と措置を肯定的に評価した。また、日本政府が実施する措置に協力するとも言い及んだ。
オ)在韓日本大使館前の少女像
(韓日外相共同記者会見での韓国側発表内容)
❏韓国政府は、日本政府が在韓日本大使館前の少女像に対し、公館の安寧・威厳の維持という観点から懸念している点を認知し、韓国政府としても、可能な対応方向について関連団体との協議等を通じて、適切に解決されるよう努力する。
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日本側は少女像問題に関して格別な関心を示した。慰安婦合意の内容は、韓国外相が共同記者会見で発表した部分と発表しなかった部分に分かれているが、少女像の問題は両方に含まれている。
少女像問題と関連して双方が非公開とした部分は次の通りだ。
日本側は「今回の発表によって慰安婦問題は最終的かつ不可逆的に解決されるので、韓国挺身隊問題対策協議会(以下「挺対協」)など各団体が不満を表明する場合も韓国政府としてはこれに同調せず、説得してくれるよう希望する。日本大使館前の少女像をどのように移転するのか、具体的な韓国政府の計画を聞きたい」と述べた。
これに対して韓国側は「韓国政府は日本政府が表明した措置の着実な実施を前提に、今回の発表で、日本軍慰安婦被害者の問題は最終的かつ不可逆的に解決されることを確認し、関連団体等の不満表明がある場合、韓国政府としては説得に努力する。韓国政府は日本政府が日本大使館前の少女像に対し、公館の安寧・威厳の維持という観点から懸念している点を認知し、韓国政府としても、可能な対応方向について関連団体との協議等を通じて適切に解決されるよう努力する」とした。
日本側は協議の初期段階から少女像移転の問題を持ち出し、合意内容の公開部分に含めるよう希望した。韓国側は少女像問題を協議対象にしたとの批判を懸念してこの問題を合意内容に含めることに反対した。しかし、協議の過程で結局、これを非公開部分に入れようと提案した。
双方、具体的な表現をめぐり、もみ合いの末に、最終的には「関連団体との協議等を通じて適切に解決されるよう努力する」との表現が、公開部分と非公開部分の両方に同じように入ることとなった。韓国側は、これは少女像の移転に合意したものでなく、発表内容にある「努力」以上に、別途に約束はないと説明してきた。とくに、国会やメディアからの「公開された内容以外の合意があるのか」との問いに対し、少女像と関連してそのような合意はないとの趣旨を答えてきた。
しかし韓国側は、公開部分の少女像関連の発言とは別途、非公開部分で、日本側が少女像問題について提起したのに呼応する形で、提起内容と同様の発言を反復していた。非公開部分における韓国側の少女像関連の発言は、公開部分の脈絡とは異なり、「少女像をどのように移転するのか、具体的な韓国政府の計画を聞きたい」とする日本側の発言に呼応する形になっている。
少女像は民間団体が主導して設置されただけに政府の関与で撤去するのは難しいとしてきたのに、韓国側はこれを合意内容に含めていた。このため、韓国政府が少女像を移転する約束はしていないとしていた意味合いは薄らいだ。
カ)国際社会での非難・非難自制
(韓日外相共同記者会見での日本側発表内容)
❏あわせて、日本政府は、韓国政府と共に、今後、国連等国際社会において、本問題について互いに非難・批判することは控える。
(韓日外相共同記者会見での韓国側発表内容)
❏韓国政府は、今回日本政府の表明した措置が着実に実施されるとの前提で、日本政府と共に、今後、国連等国際社会において、本問題について互いに非難・批判することは控える。
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国際社会で相互の非難・批判を控える問題に関しても韓国側はやはり、この問題は慰安婦問題が解決すれば自然と解決していくと主張したが、日本側はそのような内容を盛り込むことを引き続き希望した。韓国側は「日本政府の表明した措置が着実に実施されるとの前提で」、非難・批判を「互いに」控えることで同意した。
慰安婦合意の後、青瓦台は外交省に基本的に国際舞台で慰安婦関連の発言をしないように、と指示したりもした。それで、さも、この合意によって国際社会で慰安婦問題を取り上げない約束をしたかのような誤解を招いた。
しかし、慰安婦合意は韓日2国間次元で日本政府の責任、謝罪、補償の問題を解決するためのものであって、国連など国際社会において普遍的な人権問題や歴史的教訓として慰安婦問題を取り扱うことを制約するものではない。
(2)非公開部分
慰安婦合意には両国外相の共同記者会見での発表内容以外に、非公開の部分があった。このような方式は日本側の希望に沿って高位級協議で決まった。非公開部分は、①外相会談での非公開言及②財団設立に関する措置内容③財団設立に関する論議記録④発表内容に関する記者質問に対する応答要領――からなっている。[注11]
[注11]高位級協議で論議された「財団設立に関する論議記録」などに基づいて「和解・癒し財団」が設立され、関連事業が実施された。「財団設立に関する措置内容」はこの報告書の[注8]、「財団設立に関する論議記録」は[注9]、「発表内容に関する記者質問に対する応答要領」は[注7]で確認できる。
非公開の内容は、挺対協など被害者関連団体への説得、日本大使館前の少女像、第三国における慰安婦関連の像や碑の設置、「性奴隷」という用語の問題など、国際的にデリケートな事項だ。非公開内容は日本側が最初に発言し、韓国側がこれに呼応する形になっている。
まず、日本側は(1)「今回の発表によって慰安婦問題は最終的かつ不可逆的に解決することになるので、挺対協など各団体が不満を言う場合にも、韓国政府としては同調せず、説得してくれるよう希望する。日本大使館前の少女像をどのように移転させるのか、具体的な韓国政府の計画を聞きたい」(2)「第三国における慰安婦関連の像や碑の設置については、そのような動きは諸外国で各民族が平和と調和のうちに共生を望んでいる中、適切でないと考える」(3)「韓国政府がこんご『性奴隷』という単語を使わないよう希望する」――と言い及んだ。
これに受けて韓国側は、(1)「韓国政府は日本政府が表明した措置の着実な実施を前提に、今回の発表を通して日本軍慰安婦被害者問題は最終的かつ不可逆的に解決されることを確認し、関連団体などの不満表明がある場合、韓国政府としては説得に努力する。韓国政府は日本政府が日本大使館前の少女像について公館の安寧・威厳の維持という観点から懸念している点を認め、韓国政府としても可能な対応方向について関連団体との協議等を通じて適切に解決されるよう努力する」(2)「第三国での日本軍慰安婦被害者と関連した石碑や像の設置問題に関しては、韓国政府が関与することではないが、今回の発表に伴い、韓国政府としてもこのような動きを支援することなく、こんごの韓日関係が健全に発展するよう努力する」(3)「韓国政府はこの問題に関する公式名称は『日本軍慰安婦被害者問題』のみであることを改めて確認する」――と応じた。
韓国政府は、公開された内容以外の合意事項があるのかという質問に対し、「少女像との関連ではそのようなものはない」とする一方で、挺対協説得、第三国での慰安婦関連の像や碑の設置、「性奴隷」という表現――に関しては非公開の内容があるという事実は語らなかった。
韓国側は協議の初期段階から被害者関連団体に関する内容について非公開とすることを受け入れた。これは被害者中心、国民中心でなく、政府中心で合意したことを示している。
日本側は挺対協など被害者関連団体を特定して韓国政府に説得を要請した。これに対して韓国側は挺対協を特定はしなかったものの、「関連団体説得の努力」をする、と日本側の希望を事実上受け入れた。
また、日本側は海外での慰安婦関連の石碑や像の設置を韓国政府が支援しないとの約束を取り付けようとした。韓国側は、それは政府が関与することではないとして要求を拒んだが、最終段階で「支援することなく」という表現を入れることで同意した。
日本側は韓国側が性奴隷という表現を使わないよう望んだ。韓国側は性奴隷が国際的に通用する用語である点などを理由に反対したが、政府が使う公式名称としては「日本軍慰安婦被害者問題」のみであると確認した。
非公開部分の内容は韓国政府が少女像を移転したり、第三国で慰安婦関連の像や碑を設置できないよう関与したり、「性奴隷(sexual slavery)」という表現を使わないようにしたりといった具合に、約束こそしていないものの、日本側がこのような問題に関与できる余地を残した。
2015年4月の第4回高位級協議で暫定合意の内容が妥結した後、外交省は内部の検討会議で4つの点について修正・削除が必要であると整理した。そこには非公開部分のうち第三国での像や碑の設置と「性奴隷」という表現に関する問題の2点のほか、公開と非公開部分にまたがった少女像に関しても含まれていた。これは、外交省として非公開合意の内容が副作用をもたらし得ることを認知していたことを示している。
(3)合意の性格
慰安婦合意は両国外相の共同発表と首脳の追認をへた公式の約束であり、その性格は条約ではなく、政治的な合意である。
韓日両国政府は高位級協議の合意内容を外相会談において口頭で確認し、会談直後、共同記者会見で発表した。そして、事前の約束通り、両国首脳が電話で追認する形式をとった。
双方が発表内容をそれぞれ公式ウェブサイトに掲載したが、内容で相互に一致しない部分が生じた。韓国外交省は外相共同記者会見で発表した内容を、日本の外務省は双方が事前合意した内容を公式ウェブサイトに掲示した。また、双方それぞれが公式ウェブサイトに載せた英語翻訳文にも違いがあり、混乱を大きくした。それで、実際に合意した内容がどういうものなのか、発表した内容がすべてなのか、といった点に関して疑惑と論議を呼んだ。
2.合意の構図
この間、被害者側の3大中心要求事項、即ち、日本政府による責任認定、謝罪、賠償という観点からみると、慰安婦合意はアジア女性基金など、これまでのものと比べて良くなったと見ることのできる側面がある。とくに、安倍政権を相手にこれだけの合意を成したことを評価する見方も一部にある。
3大中心事項は日本側が、とくにが他の条件を付けず、自発的に受け入れることが望ましかった。しかし、慰安婦問題の最終的・不可逆的な解決の確認、少女像問題の適切な解決努力、国際社会での相互の非難・批判自制など、日本側の要求を韓国側が受け入れる条件で妥結した。
韓国側は、初めのうちは河野談話で言及した将来世代に対する歴史教育、真相究明のための歴史共同研究委員会設置など、日本側がなすべき措置を提示して対抗したりもしたが、結局、日本側が描いた通りの協議をすることとなった。こうして3大中心事項と韓国側の措置が遣り取りされる方式で合意がなされたことで、3大中心事項である程度の進展があったと評価できる部分すら、その意味合いは色あせた。
加えて、公開部分のほかにも韓国側にとって一方的な負担となり得る内容が非公開で含まれていることが明らかになった。それもみな、市民社会の活動と国際舞台での韓国政府の活動を制約すると解釈される余地のある事項だ。このため、公開された部分だけでも不均衡な合意はいっそうアンバランスなものとなった。
3.被害者中心の解決
慰安婦合意で浮かび上がってきている重要な問題意識は、この合意が慰安婦被害者及び関連団体と、国連など国際社会が強調してきた被害者中心のアプローチとその趣旨を反映したものになっているかという点だ。韓国政府は慰安婦問題を戦時性暴力など普遍的な価値にかかわる問題として女性の人権を保護する次元で扱ってきた。
戦時における女性の人権問題との関連で被害者中心のアプローチについていえば、被害者を中心に据えて救済と補償がなされなければならないということだ。2005年12月の国連総会決議によると、被害者が味わった被害の深刻さ具合と被害が生じた状況の歴史的脈絡に沿ってそれに相応する、完全で効果的な被害の回復がなされなければならない。
朴槿恵大統領は慰安婦問題に関し、「被害者が受け入れることができ、韓国民が納得できる」解決、「国民目線にかない、国際社会も受け入れることができる」解決にならなければならないという点を強調していた。外交省は、局長級協議の開始が決まった後、全国の被害者団体、民間の専門家らと面談した。2015年1年間だけをとっても計15回以上にわたって被害者及び関連団体と接触した。
被害者側は慰安婦問題の解決には、日本政府の法的責任認定、公式謝罪、個人賠償の3つが何よりも重要だと言ってきた。外交省はこれらの意見と専門家の助言に基づき、修飾語の付かない日本政府の責任認定、日本の総理の公式謝罪、個人補償を主たる内容とする交渉案を準備して局長級と高位級協議に臨んだ。
外交省は交渉に臨むなかで、韓日両政府間で合意したとしても、被害者団体が受け入れなければ再び原点に戻らざるを得ないので、被害者団体を説得することが重要だという認識を持っていた。また、外交省は交渉を進める過程で、被害者側に時々、関連内容を説明した。しかし、最終的・不可逆的な解決の確認、国際社会での非難・批判の自制など、韓国側が取らなければならない措置があるということについては具体的に知らせなかった。金額に関しても被害者の意見を集約しなかった。結果的に、彼女らの理解と同意を引き出すことに失敗した。
被害者団体は合意発表直後、声明を出し、「被害者と支援団体、そして国民らの熱望は、日本政府が日本軍慰安婦犯罪に対して国家的、法的な責任を明確に認め、それに伴う責任を果たすことで被害者が名誉と人権を回復し、二度とこのような悲劇が起きないようにしろということだった」と反発した。また、最終的・不可逆的な解決と少女像問題が含まれたことについても強く批判した。
国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)は、日本政府の定例報告書に関する2016年3月の最終見解の中で「慰安婦問題は『最終的かつ不可逆的に解決される』とした発表は、『被害者中心のアプローチ』を十分に取っていなかった」と評価した。また、合意を履行する過程にあっては被害者の意を十分に汲み取り、真実、正義、賠償に関する被害者の権利が保障されるように、と日本政府に求めた。[注12] 拷問禁止委員会[注13]なども慰安婦合意に関して被害者中心のアプローチが欠けていたと指摘した。
[注12]CEDAW/C/JPN/CO/7-8(2016)
[注13]2017年5月、拷問禁止委員会は、被害者の権利と国家責任を規定した拷問禁止条約第14条の履行に関する一般論評で、慰安婦合意が(この条項に)十分に沿っていないといった点などを指摘し、慰安婦合意の修正を勧告した。(CAT/C/KOR/CO/3‐5)
4.政策決定過程及び体系
慰安婦問題を外交事案として扱う際には人類普遍の価値を追求すると同時に対外政策全般との適切なバランスを考慮すべきだ。火が付きやすい慰安婦問題は慎重にアプローチしないと対日外交だけでなく外交全般に大きな影響が及ぶからだ。朴槿恵政権は慰安婦問題を韓日関係改善の前提とし、硬直した対応で、いろいろと負担を招きよせてしまった。
朴槿恵大統領は就任したその年、013年の「3・1節」の記念演説で「加害者と被害者という歴史的立場は千年の歴史が流れても変わらない」といい、対日強硬政策を主導した。韓国政府は慰安婦問題と首脳会談開催を結びつけたことで、歴史での対立と共に安保、経済、文化などの分野で高い代償を払った。政府次元の対立が相互の過剰反応と国際舞台における過度の競争を生み、国民レベルで感情の溝を深めた。
韓日関係の悪化は米国のアジア太平洋地域戦略にも負担となり、米国が両国間の歴史問題に関与する結果をもたらした。このような外交環境のもと、韓国政府は日本政府との交渉で慰安婦問題を速やかに解決しなければならない状況となった。
韓国政府は慰安婦問題と安保や経済などの部門を分けて対応することができず、「慰安婦外交」に埋没した。また、大統領は慰安婦問題の解決へ米国を通じて日本を説得するという戦略を主導した。何回かの韓米首脳会談の場で日本の指導層の歴史観のせいで韓日関係の改善がなされないと繰り返し強調した。しかし、このような戦略に効果はなく、却って米国内に「歴史疲れ」をもたらした。
慰安婦協議に関する政策決定権限があまりにも青瓦台に集中しすぎていた。大統領の側近参謀らは大統領の強硬姿勢が対外関係全般に負担となり得たのに、首脳会談と結び付けて日本を説得しようとする大統領の意向になびいた。ましてや大統領が意思疎通を欠いた状況にあって調整のなされない指示が出されるため、交渉関係者は思うように動けなかった。
主務省庁の外交省は慰安婦協議で脇役となり、中心となる争点部分に関して十分に意見を反映できなかった。また、高位級協議を主導した青瓦台と外交省の間で適切な役割分担や有機的な協力も足りなかった。
Ⅳ.結論
慰安婦TFはここまで、被害者中心のアプローチ、普遍的価値と歴史問題に向き合う姿勢、外交における民主的要素、省庁間の有機的協力と意思疎通を通した均衡のとれた外交戦略――といった面から合意の経緯をたどり、内容を評価してきた。
慰安婦TFは次のような4つの結論を下した。
1.戦時における女性の人権に関する国際規範として定着した被害者中心のアプローチが慰安婦協議に十分反映されず、一般的な外交懸案を扱うような遣り取りの中で合意がなされた。韓国政府は被害者が一人でも多く生存しているうちに問題を解決しなければならないという立場で協議に臨んだ。しかし協議の過程で被害者らの意見を十分に集約しないまま、政府の立場から合意をまとめた。今回のケースで見るように、被害者が受け入れない限り、政府間で最終的・不可逆的な解決を宣言したとしても問題は再燃するほかない。
慰安婦問題のような歴史問題は、短期間の外交交渉や政治的妥協で解決するのは難しい。長期的に共通の価値観と認識を広げ、将来世代に対する歴史教育も並行して進めるべきだ。
2.朴槿恵大統領は「慰安婦問題の進展なくして首脳会談はできない」と強調するなど、慰安婦問題を韓日関係全般と結び付けて解決しようとして、かえって関係を悪化させてしまった。また、国際環境の変化を受けて「2015年中の交渉終結」へと方針転換をして政策の混乱を招いた。慰安婦といった歴史問題は韓日関係だけでなく対外関係全般にあって負担にならないよう、バランスのとれた外交戦略を立てるべきだ。
3.今日の外交は国民と共にあるべきだ。慰安婦問題のように国民の関心が高い問題であるほど、国民と共に歩む民主的な過程と手続きがいっそう重視されなければならない。しかし、高位級協議は一貫して秘密交渉で進められ、発表された合意内容以外の、韓国側に負担となり得る内容を公開しなかった。
4.大統領、交渉責任者、外交省の間の意思疎通が不足した。結果、政策方向が環境変化に伴って修正または補完されるべきシステムが機能しなかった。今回の慰安婦合意は政策決定の過程で幅広い意見の集約や有機的な意思疎通、関連省庁間の適切な役割分担が必要なことを示している。
外交は相手があるだけに、最初に立てた目標・基準や検討過程で提起された意見をすべて反映させることはできない。しかし、このような外交交渉の特性と困難さを勘案したとしても、慰安婦TFは上記4つの結論を下さざるを得ない。