2019年8月24日土曜日

ゴールポスト動かしたのはどっちなのか?/日韓衝突

「金大中大統領と小渕恵三首相が交わした日韓パートナーシップ宣言を挫折させたのは日本だ。金大中大統領が生きていたら、今の日本を激しく怒鳴りつけていただろう」
 
金大中大統領の死去からこの8月で10年となったが、この節目に故大統領の元側近が韓国紙のインタビューでこう語った。21年前の「日韓パートナーシップ宣言」は日韓善隣友好の一つの到達点とされながら、その実、画餅に帰してきたのが現状だ。こうなったのには、元大統領側近の指摘通り、確かに日本側の責任は大きい。(波佐場 清)

■「日本の謝罪を踏まえた宣言」



故大統領の元側近は、与党「共に民主党」国会議員の金漢正(キム・ハンジョン)氏(55)。金大中政権(19982003年)で大統領秘書室第1付属室長や国家情報院長特別補佐役を務めた。818日の金大統領死去10周年を前に韓国紙ハンギョレと会見し、次のようなことを語った。
韓国国会研究所HP 金漢正議員

「パートナーシップ宣言が可能だったのは日本の謝罪があったからだ。小渕首相は韓国を明示して外交文書に謝罪と反省を表記した。それ以前の村山談話は『アジア諸国』に謝罪したが、対象は不明確だった」


「宣言を挫折させたのは日本だ。真心こもった謝罪と反省を込めた外交文書を事実上廃棄したのだ。『金大中・小渕』の『金大中』はそのままだが、『小渕』だけが『安倍』に変わった。過去20年は日本右傾化の歴史だ。このままでは、どのような指導者が出ても韓日関係はよくならない」
http://japan.hani.co.kr/arti/politics/34137.html

■日韓の新しい枠組み
実際のところ、どうだったのか。
この宣言は1998108日、日本を国賓として公式訪問した金大中大統領と小渕恵三首相が共同発表した。そこでは「1965年の国交正常化以来築かれてきた両国間の緊密な友好協力関係をより高い次元に発展させ、21世紀に向けた新たな日韓パートナーシップを構築するとの共通の決意を宣言した」とうたっていた。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/yojin/arc_98/k_sengen.html

最大のポイントは、日本が過去の植民地支配に伴う韓国民の損害・苦痛を認め、反省・お詫びを表明したことだ。65年の日韓条約(日韓基本条約・諸協定)にはそのような内容は一切なく、日本側は植民地支配という概念すら認めていなかった。その点、この宣言は日韓条約を実質的に一部修正・補完し、新しい枠組みにつくり直すという意味合いを持っていたといえる。

■村山談話なぞり、韓国を明記
具体的には、次のように記されていた。
▽小渕首相は、今世紀(20世紀)の日韓両国関係を回顧し、我が国が過去の一時期韓国国民に対し植民地支配により多大の損害と苦痛を与えたという歴史的事実を謙虚に受けとめ、これに対し、痛切な反省と心からのお詫びを述べた。
▽金大中大統領は、かかる小渕首相の歴史認識の表明を真摯に受けとめ、これを評価すると同時に、両国が過去の不幸な歴史を乗り越えて和解と善隣友好協力に基づいた未来志向的な関係を発展させるためにお互いに努力することが時代の要請である旨表明した。
▽両首脳は、両国国民、特に若い世代が歴史への認識を深めることが重要であることについて見解を共有し、そのために多くの関心と努力が払われる必要がある旨強調した。

金大中大統領の元側近、金漢正氏が韓国紙との会見で指摘したように、ここでの小渕首相の「過去」に関する言及は、19958月の戦後50周年にあたっての「村山首相談話」をなぞり、韓国に対する植民地支配を明記した内容になっていた。

ちなみに村山談話は「わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。私は、未来に誤ち無からしめんとするが故に、疑うべくもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め、ここにあらためて痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明いたします」となっていたのである。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/danwa/07/dmu_0815.html

■安倍首相の「つまみ食い」
それから20年が経った昨年10月、この日韓共同宣言20周年を記念するシンポジウムが東京都内であり、あいさつに立った安倍首相は次のように述べた。
首相官邸HP        日韓共同宣言20周年であいさつする安倍首相
1998年、小渕総理と金大中大統領は、自ら署名した日韓パートナーシップ宣言において、両国の過去の不幸な歴史を乗り越えて、和解と親善友好協力に基づいた未来志向的な関係を発展させるためにお互いに努力することが時代の要請である旨表明しました」


http://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/actions/201810/09japan_korea.html


あれっ?である。金大中大統領は、たしかに「過去の不幸な歴史を乗り越えて…未来志向的な関係を発展させるためにお互いに努力することが時代の要請である」旨を表明していた。しかし、それは「植民地支配に対する痛切な反省と心からのお詫び」を述べた小渕首相の歴史認識表明を受けてのものではなかったのか。

要するに、前提抜き、都合のいい部分だけの「つまみ食い」。安倍首相はこのあいさつで「20年前のこの両首脳の決意は、現在を生きる私たちにも引き継がれています」とも述べたが、しらけてしまう。

■金大中大統領は平和憲法を評価
それはともかく、日韓パートナーシップ宣言は両国関係に新しい時代を開くものとはならなかった。宣言後、2002年のサッカーワールドカップ共催、韓国での日本の大衆文化開放、日本の韓流ブームといったものはあったが、結局、歴史問題は乗り越えられなかった。

いま、この宣言を読み返してみて、改めて思うことがある。
次のようなくだりがあった。
▽小渕首相は、韓国がその国民のたゆまざる努力により、飛躍的な発展と民主化を達成し、繁栄し成熟した民主主義国家に成長したことに敬意を表した。

▽金大中大統領は、戦後の日本の平和憲法の下での専守防衛及び非核三原則を始めとする安全保障政策並びに世界経済及び開発途上国に対する経済支援等、国際社会の平和と繁栄に対し日本が果たしてきた役割を高く評価した。

これはこの共同宣言が発せられた199810月という時点で、1965年の国交正常化以降、その間に相手国がそれぞれに歩んできた道について相互に評価し合ったものである。それから21年が経った今、この間を振り返ってみるとどうか。

韓国は、小渕首相が「敬意を表した」とした「飛躍的な発展と民主化」の道をその後も着実に歩み続けてきているように見える。
一方で、金大中大統領が「高く評価した」とした日本の「平和憲法の下での専守防衛…」の方はどうか。憲法9条を中心とした改憲に意欲をみせる安倍首相は韓国に疑念を持たれているとしてもおかしくはない。

■村山談話を「骨抜き」
安倍首相はパートナーシップ宣言で示された歴史認識の骨格となった村山談話に対してもあいまいな姿勢を見せてきた。第2次安倍内閣発足後、首相は国会で「安倍内閣として村山談話をそのまま継承しているというわけではない」(2013422日、参院予算委)と表明した。

その後、「歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでいる」(2014314日、参院予算委)などとし、20158月、「戦後70年の安倍談話」を発表。

そこでは、「植民地支配」「痛切な反省」「心からのお詫び」といった文言は入ったものの、一般論化するなど、植民地支配に対する韓国民への反省やお詫びは、安倍首相自身の言葉としては語られなかった。
韓国側から見た場合、これは村山談話を「骨抜き」にしたものとしか見えなかっただろう。
https://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/discource/20150814danwa.html

日本では、慰安婦問題や元徴用工問題をめぐる韓国側の姿勢について「ゴールポストを動かしている」と批判する声がある。しかし、その伝で言うなら、日本はゴールポストを動かしてこなかったと果たして言えるのだろうか。
 

1 件のコメント:

  1. 日本は韓国から感謝される立場であり、謝罪する立場ではありません。ですから日本の謝罪を前提としたパートナーシップなどナンセンスというべきでしょう。

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